北京ダック
「だが、どうする。例の組織の方は下手に干渉したくはないが」
皆が話を進める中、俺は考えていた。
そもそも、承諾を取るべきか否かと言う事だ。
別に友達同士で来たのなら(友達もいないし来たことないが)俺だって、軽く了承を取った。
だが、今は一応初対面の人たちとの食事だ。
それに何やら真剣に話しているし。
「それよりも、今は例の組織を対処した方が良いんじゃないか」
「まあ確かに、集会をやるたびに邪魔されたら鬱陶しいわな」
だが、こうして考えている内に料理が冷めてしまう。
で、あるならばすぐに言うべきではないか。
別に彼らだって少し話を遮られた程度で気分を害すこともないだろうし。
さっきだって俺が遅刻のことを言おうとしたら何故か彼方が謝ってきたくらいだしな。
よし。
「それ、俺がもらってもいいですか?」
意を決して了承を取る。
北京ダックが欲しい。
そう言えばいいのだ。
もし俺がテーブルを回転させて良いのなら何も言わないはずだし。
最悪、マナー違反があっても教えてくれるだろう。
そう思ったのだが、何を驚いたような顔をしているのだろうか。
え?
もしかして、まずいことした?
そう思った俺ではあったが、ムショウさんが口を開いたことで安堵した。
「……わかったわ。ルカ殿の好きなようにしていいわよ」
◆
六大同盟の集会。
その中で情報共有が行われ、皆の頭にはナリヒサ製薬の裏組織、そして直近の問題としてとある組織名前が挙がっていた。
組織の名は
あくまで推測に過ぎないが、恐らく今回もそうだろうと皆が考えていた。
狙撃者の発見こそ異能倶楽部のボスであるルカの指摘があってこそだが、実際にローレライの手の者が確認を行いそれは従者を使って各組織のボスへと伝わっていた。
そのため皆がその情報をその場で共有してそれを踏まえた上で会話はなされていた。
陽炎の活動は極めて最近に始まった物だが、それでも急速に力をつけ、すでに六大組織は脅威であると認めていた。
そのうえ、今回の狙撃以外にも執拗に六大組織への干渉が見られることから手を打とうとは皆が思っていた。
だが、それには情報が足りなかった。
壊滅は可能だろう。
六大組織の力をもってすれば、どう転んでも負けることはない。
しかし、それだけではいけなかった。
陽炎が組織自身の意思で六大組織への干渉を行っていたのならば陽炎を潰すだけで良いだろう。
だがもし、裏で何者かの意思が介在していればその正体を突き止めなければならなかった。
第二、第三の陽炎が出てきては意味がない。
そのため、各組織が水面下で情報をかき集めていたところであった。
だが、そろそろ動こうか。
そんなことを皆が考えていた時、一人の少女が言ったのだ。
「それ、俺がもらってもいいですか?」
その声の主は異能倶楽部の長であるルカだった。
そして、その言葉が意味することは陽炎に関しては異能倶楽部にすべて任せてほしい。
そう言っていることに他ならなかった。
一瞬、ボスの中には否定の言葉を紡ごうと頭によぎった者もいた。
今までこちらが慎重に進めて来たことをあのネクサスのボスとは言え任せられるのかという疑問が未だぬぐえなかったからだ。
だが、逆に言えば半信半疑なその実力も見えてくるかもしれない。
そう思ったことで未だ信じ切れていないボスも首を縦に振った。
その影に浮かぶ青い双眸は何を見据えるのか見極めるために。
今回の集会を取りまとめる役としてローレライのボスである霧消が返答する。
「……わかったわ。ルカ殿の好きなようにしていいわよ」
その言葉は、皆の総意だった。
◆
俺はお言葉に甘えて、テーブルを回して北京ダックにありついた。
初めて食べたがなかなかにうまい。
そんな感想を持ちながら俺は中華を楽しんだ。
正直、北京ダックが手元に来るまであまり話を聞いていなかったが、北京ダックが心に余裕をもたらしたことで割と最後の方は真面目に聞いていた。
相変わらず話には参加できなかったが、どうやら異能が関係する社会問題についての議論が主なようだ。
皆、何処の治安が悪化しているだとかなんだとか色んなことを知っていて話についていくのがやっとだった。
いや、完全に理解できたわけではなかったのだが。
やっぱり異能だと甘く見過ぎていたと俺は実感した。
異能と言っても社会情勢のようなものでたくさんの情報をもってなければ彼らの話には入れない。
きっと、たくさん勉強しているのだろう。
ニュースでは聞いたこともないような話もあったし、やっぱり新聞とか読むのだろうか。
実家ですら新聞は取ってないし、かといってネットニュースを読むわけでもないから深く彼らが話始めると分からない。
結局俺は半ば諦めて料理を楽しむくらいしかできなかった。
まあ、製薬会社の裏組織とか言って陰謀論じみたことを言い出した時には笑ってしまいそうになったが。
でも、今日は行ってよかったと思えた。
長年友達がいなかったために会話らしい会話もしなかったせいか久しぶりに話せて(遅刻の謝罪と北京ダックの件だけとはいえ)よかったし。
暫くして解散した後、何だかいい気分になりながら俺はツムギちゃんとユキナちゃんにお別れを言って家に向かった。
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