回転円卓


 なんだか謝罪を受け入れてくれたムショウさんに心の中でお礼をしながら俺は視線を手元に落とす。

 円形の大きなテーブルには色んな中華料理が置かれていた。

 どれもとてもおいしそうだ。


 お高そうな店とあって見たこともない料理もある。

 というか、俺の思っていた中華のイメージとは少し違った。

 中華と言えば麻婆豆腐を思い浮かべる俺としては、辛いものが多く出てくるものとばかり思っていた。


 でも、目の前にあるのは、そう言ったものよりかは蒸して作るような中華まんや焼売のようなものが多く見えた。

 まあ、無論麻婆豆腐もあるのだけど、お高い料理店で食べる料理はこういうものなのだろうか。

 それとも店ごとのその辺は変わるのだろうか。


 まあどっちでもいいか。

 それより、中華でありながらフレンチの様に大きなお皿にポツンとお肉が乗っている料理を見る。

 旨そうだ。

 いや、全部うまそうなのだが、今の俺は限られたものしか食べれないので食べられるものを見極めなければならないのだ。


 と言うのも、この身体になって辛いものが苦手になってしまったのだ。

 いや、別に今までも得意と言ったわけでもないが、それでも過剰に辛い激辛料理的なものではなければおいしく食べられた。

 だが、この身体、全くと言っていいほど辛さに対する耐性がないのだ。

 カレーなんか甘口しか食べれなくなってしまった。

 でも、味覚が変わった影響で元々苦手な甘いものを食べれるようになるなんてこともなく……まあ、苦いものが無理になったわけでもないのでそんな都合のいいことはないのだろうが。


 一つ考えられる可能性とすれば、辛みは味覚ではないから他の味覚の変化はないと考えられることか。


 まあ、いいや。

 別に元々辛い物を食べる習慣はなかったんだ。

 そこまで困ることもないだろう。

 俺がそんなことを考えてる間に話は進んでいく。


「では、今回異能倶楽部の改名についての報告を──」


 ツムギちゃんは、皆に対して改めて名前が変わったことを報告する。

 どうやらボスと言う立場を任された俺だがツムギちゃんが色々としてくれるようだ。

 まあ、正直なところ何をすればいいかを全く知らないのでやれと言われても出来ないが。


 そう言えば、異能倶楽部の前の名前って何だったのだろうか。


「次に移ります。では、──」


 司会の人が進行をスムーズに行う。

 それを俺は聞き流しつつ料理に手を付けることにした。


 何を食べようか。

 まずは、辛い物は除外するとして、熱いのも良くない気がする。

 高級感漂うこの店ではふはふして食べていたら変に思われるかもしれない。

 

「──大録會、大録様。どうぞ」

「皆にちと、耳に入れてもらいたいことがある。最近ウチの目につくとこで妙な動きをしている組織がいる」

「妙な組織」


 そこまで熱くないもの。

 正直、この場でなければ中華まんを食べたいところではあるのだが。

 さっきの肉にするか。

 鳥っぽい奴。


「知っている」


 思わず声に出てしまった。

 これは、北京ダックと言う奴だ。

 名前しか知らないが、多分それだ。


「そうだ。ルカ殿はよく知っているはずだ」

「と言う事は、先日の」

「ルカ殿の異能による影響を受けた、あのビル。それを所有するナリヒサ製薬の裏組織」


 でも、俺のいる位置からでは届かないな。

 どうやって……そうか。

 これは、世に聞くターンテーブルとかいう奴か。

 ぐるぐる回ってお皿を自分のところに持ってくるのだ。


「そういや、異能移植なんて話も聞くな。噂程度だが」

「よく言うわね、十流殿。噂どころか、秘匿されている情報よ、それ」

「ああ、そうだったか。優秀な部下がいると何でも入って来ちまうんだよ」


 テーブルを回転させるべく俺は手を添えて動きを止めた。

 重大な事実に気付いてしまったのだ。


 ここは高級中華料理店。

 マナーがあるのではないだろうか。

 

 完全に抜け落ちていた。

 どっち回しだ?

 いやそもそも回していいのか?

 ここは了承を取るべきか。


 俺は、皆の話を中断すべきか、再度頭を悩ませた。

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