みんなでたのしくごはん


 学校が終わって少し一度家に帰った俺は着替えてから指定された集合場所に向かっていた。


 てっきり、放課後と言う単語から学校帰りにどこかに寄っていくのかと思っていた俺ではあったがそうではなかったようだ。

 詳しく聞いてみれば異能倶楽部に関係した事だという。

 ユキナちゃんも行くとなれば、関係のないイベントだと思っていたのだが実はそうではなかった。


 一度顔を見ただけで俺は完全に忘れていたのだがその時思い出した。

 どこかでユキナちゃんの顔を見たことがあると思っていたのだが、それはあの日ツムギちゃんと再会した時に顔を合わせた男女の中の一人だった。

 一度会っただけ。

 しかもあれから時間が経っていたために顔が一致するのが遅れてしまった。


 そのせいで断りそびれてしまったのだが、まあ今となってはそれもいいかなと思い始めていた。

 よく考えてみれば、すでにチーム?組織?の名前を異能倶楽部に変えてくれている。

 それならば変に調子に乗って危ないこともしないだろうし、態々名前まで俺の要望通り変えてくれたのなら、断る理由もなかった。


 まあ、そんなこんなで俺は比較的前向きに目的地へ向かっていたのだが不意に声を洩らした。

 

「って、あれ?」


 俺は、携帯の画面に映る地図を睨む。

 地図通りに進んでもどうにも集合場所につかない。

 地図は昔から苦手で迷いそうだから早めに家を出たのに余裕を持ったはずの時間も無くなっていた。


「仕方ないか」


 俺はツムギちゃんに連絡を入れる。

 俺を待ってては遅れてしまう。

 そう思い、先に行ってくれとメッセージを送った。

 彼女は俺のもとまで来てくれると言ったけれどすでに自分がどこにいるかも分からないので断った。

 今日はなんだか集まりがあってご飯を食べるようだけど、聞くところによると他のチームも来ていると言う。

 きっと異能を使った部活とかクラブとかで交流をするのだろう。

 で、あれば、俺に付き合って皆が遅れてしまうのは避けたいところだ。

 

 そんなことを思いながらも俺が目的地を探して歩いていると不意に通行人の声が聞こえて来た。


「最近の、組織の動きやばくないか?」

「どこのだよ?」

「全体的に」


 ガラの悪そうな男二人組が壁際で立ち止まって煙草に火をつけながら会話をしていた。

 どこに行っても組織組織で最近の治安は一体どうなっているのだろうか。

 実際、自分が関わることはないがそれでも物騒だと聞けば少し不安にもなる。

 

「ああ、そういやネクサスのボスが出て来るとかで騒いでたな」

「俺ら末端には関係ないが巻き込まれるのは御免だ」


 ネクサス?

 そう言えば、クラスの男子が話していたのにも出てきていたような。

 学生が主体とか言っていたし、強力な異能を持ったことによって危ない事とかしているのだろうか。

 不意に浮かぶのはツムギちゃんやユキナちゃんがいる異能倶楽部だけど下手したらネクサスの様になってしまう可能性があると考えれば少し怖い。

 いや、そもそもそのネクサスと言う組織は強力な異能があったから今の今まで存続していると考えれば異能倶楽部のようなきっと学生の範疇を越えない様な異能もちの集団ならもっとひどいことになっていてもおかしくはない。


 まあ、それでも今日は異能倶楽部の他にもそう言った集まりが来るようだからそこにネクサスのような組織が集まっていないとも限らないからそう言ったところも注意しなきゃいけな──


「うぐっ!?」

「痛ってぇな」


 考え事をしていたせいか、前から歩いてきたであろう通行人にぶつかった。

 不機嫌そうな声にビビりながらも俺が顔を上げると、怖い顔が俺を見下ろしていた。

 大学生くらいだろうか遊んでそうな見た目だ。

 酒でも飲んでいるのだろうか顔が赤い。

 男はガンつけるように俺を睨んだ。


「ご、ごめんなさ──」

「あれ、可愛いじゃん。なに、一人?俺と遊ばない?」


 謝ろうとした俺の言葉に被せるように男は言った。

 不意に後ずさるも肩に手を添えられる。

 この身体では力任せに押し切られてしまう。

 そう分かってしまったときすでに脚は震えていた。

 

「ちょっと、先輩。勘弁してくださいよ」


 どうしようもなくなった俺と男の間にそんな声が割って入った。

 口ぶりからして男の後輩だろうか。

 こっちも遊んでそうなチャラい見た目だった。


「邪魔すんなよ」

「先輩酔い過ぎですよ。どう見ても、その子小学生でしょ」

「あ?」


 後輩の言葉に男は確認するように俺の顔をまたのぞき込んだ。


「マジだ」

「でしょ。流石に小学生はまずいっすよ。それに、見た感じ小3くらいでしょ。流石に勃たないっすよ」


 一瞬、善意で助けてくれたかに見えたがどうやら違ったようだ。

 まあ、結果的には助かったが。

 男たちは謝罪もせずに去っていった。


「はぁ」


 どっと疲れた気がして俺は息を吐いた。

 そして、顔が可愛いだけにこれ以上変な男に絡まれたくはない俺は来ていたパーカーのフードを被る。

 更に、異能であまり顔が見えにくいように頑張ってフードの中に影を作った。

 下手をしたらコンビニに行ったときの様に顔面が光ってしまう可能性があるので調整が大変だ。

 まあ、光源もないのに影だけを作れるのは流石異能と言ったところだろうか。







 ◆


 六大同盟。

 そう呼ばれる六つの大きな組織からなる集会が今夜開かれていた。


 今回の会場はとある高級中華料理店であった。

 定期的に開かれるこの集会だがいつも同じ場所で行われるわけではない。

 だが、すべてに共通するのが高級料理店であることだった。


 六大組織と呼ばれる者たちの集まりであることもあって金は十分にあった。

 更に、貸し切り、そして、情報漏洩の危険性を考えるとこういった店を使用するのはそこまで不思議なことではなかった。


 不思議と言うならばそんなことよりも今回集会の開始時間前に六大同盟の内の五つの組織のボスがすでに席についていることの方が珍しくあった。

 普段の集会ならば遅刻は当たり前、しかも、ボスではなく代理がこの場に来ることも珍しくない。

 そんな状況の中でそれぞれの組織のボスがすでに集合していることは奇跡とも言えるほどだった。


 だが、それも必然であるとも言えるかもしれなかった。

 全ての組織のボスが明確な目的をもって参加しているのだから。


 その目的とは、ただ一つ。

 六大組織の内の一つネクサス改め異能倶楽部のボスの顔を一目見るため。


 組織発足から今の今まで表舞台には決して現れず、性別、年齢と言ったすべての情報が謎に包まれた存在。

 そして、先日、黒い稲妻の異能を操り、三つの高層ビルをいともたやすく破壊したという。

 それぞれの組織が情報を得るために潜伏させていた者たちからの報告を受けていた。


 様々な記録媒体による情報はどうやってか消されていて、分かるのはその場に居合わせた者たちの証言だけ、しっぽを見せたと思いきや更に謎を生む。

 そんな人物が突如として皆の前に姿を現すと言うのだ。

 それをみすみす見逃そうなどと言うものはこの場にはいなかった。


 そして、約束の時間から少し。

 入り口のドアが開いた。

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