学校


 十五歳になる歳、俺は異能を発現した。

 俺が、十一歳の時、つまり四年前に世界各地で現れたそれは時が経つに連れて珍しいものではなくなった。


 十五になっても、異能が発現しない俺は半ば諦めていたのだが、性転換するとともに異能が発現した。

 よくわからないがそう言うことだ。

 で、幼馴染と再会して、まあ、いろいろあってやむなく分かれたのだが……


「リオ君!似合ってるよ!」

「え、あ、うん。ありがと」


 何故か美少女巨乳幼馴染であるツムギちゃんとの交流は続いていた。

 しかも、彼女は家に入り浸ってた。


 あれからせっかくの女の子との関係を切った俺は落ち込んでいたが、彼女は当たり前のようにやって来た。

 そして、連絡先を交換して帰って行った。

 そんなこんなで、彼女が暇なときは俺の部屋に来るようになったのだった。


 そして、今現在俺は新しい制服に袖を通していた。

 当たり前のように彼女は着替えを見ていたが、体は女だから気にもならないのだろう。


「これでもう立派な高校生だね」

「見た目は中学生くらいだけどね」


 俺は鏡を見てそう言う。

 映っている黒髪碧眼の少女はどう見ても中学生にしか見えなかった。

 いや、もっと正確に言えば、中学校入学前の小学生が届いたばかりの制服を着たような姿と言えばいいか。

 まあ、この制服がどこのものか知ってれば、中学生と間違えられるなんてことはないだろうから大丈夫だろうが。

 ともあれ今日から俺は高校生だ。


 と言うのも、どうやらいろいろとツムギちゃんが手配してくれたのだ。

 ツムギちゃんの家はお金持ちでツテが多く、どうやらその手のことに詳しい人を知っていたらしい。

 俺にはさっぱりだが、とにかく学校に通えるくらいは融通が利いたようだった。


 正直なところ、体に変化が起きてから中学には行ってないから出席日数も足りないし、卒業もなぜできたか分からない。

 しかも、結構いいとこの高校にも受かってしまった。

 顔面接なのだろうか?それなら納得できるが。


 それに、親とも顔を合わせたのだが、妙に理解が早かった。

 ツムギちゃんの方から、事情の説明は先にしてくれていたようではあったが、それにしても、今の俺の状態で一人暮らしの継続を許してくれるとは思っていなかった。


 と、そんなことを考えていると少し大きな力が働いているのではないかと勘繰ってしまうが忘れることにした。


「そう言えば、リオ君は皆と一緒にやる気はないの?」

「ん?ああ、組織ってやつね。いつも言ってるけどあまり乗り気にはなれなし。……まあ、そうだな、組織の名前をなんちゃらクラブとかにしてくれたら考えなくもないけど。ほら、異能クラブとか」


 バカっぽい名前にしてしまえばイキって危ない事をしにくいだろう。

 クラブ活動みたいなものと思えば、楽しそうではあるし。

 確か、異能の研究を学生がする部活のようなものは昨今そんなに珍しくないようだし。

 犯罪なんかと関わり合いにはならないのならば、何かに誘われることは嬉しい。

 なまじ、仲のいい交友関係がなかっただけに、少しそう言ったことには憧れがあった。


「わかったよ。伝えとくね」


 


 


 ◆


 入学式が終わり、次の日。

 これを学校の初日と言えばいいのか、二日目と言えばいいのかは分からないが、無事学校に着いた俺は席に腰を下ろした。

 やることもないので、スマホを取り出して見る。

 中学の時は持ち込み禁止だったが、高校は休み時間であればオッケーと言う事でありがたい。


 ふと調べてみるのは性転換についての情報だが、出てくるのは創作物くらいで未だ俺以外の実例はない様だ。


 ちなみに性転換の影響で俺の社会的地位は曖昧なのだが、一応学校では女として過ごすことになっている。

 書類上は色々と複雑になってはいるが、取りあえずそう言う事らしい。


 まあ、ガワはともかく中身が男とあって、不安も多いが。


「リオ君おはよう」


 物思いにふけっているとそんな声が聞こえる。

 俺がふと顔を上げるといたのはツムギちゃんだった。

 と言うのも、ラッキーと言えばいいのかクラスが彼女とは同じだったのだ。

 しかも、彼女は俺の後ろの席。

 これは非常にありがたい。


「うん。おはよう」


 そう返して、そこでツムギちゃんが他の子を連れているのに気付いた。

 ツムギちゃんに負けないくらい可愛らしい女の子だ。

 なんかどこかで見たことあるような気もしなくもないが、多分気のせいだろう。

 男の友達だっていない俺に、女の子の知り合いなどツムギちゃん以外にいるはずもないし。


「あ!紹介するね。この子はユキナちゃん。中学から一緒なんだ」

「よろしくね!」


 そう言って黒い髪を揺らす。

 黒髪に入った白いメッシュが印象的だ。

 その特徴的な髪は恐らく異能の影響によるものだろう。

 多くの人が異能を発現した昨今においては、髪や目の色が漫画のキャラクターみたいになっていることも珍しくない。

 俺の瞳が、青くても特に注目されないのもこれが理由だった。


「えっと、よろしく」


 元気な挨拶に気おされながら、俺は挨拶を返した。

 入学式の次の日となれば、皆がグループや友達を作るころ、この段階で友達が出来たのはでかいのではなかろうか。

 まあ、今までの中学校の生活を考えれば話せる人がいるだけで大幅な進歩だが。


 同じ中学の友達とかだと、それだけでボッチ回避できていいよな。

 そう思いながら、恐らく中学も同じだったであろう談笑している男子生徒を横目に見る。



「そう言えば聞いたか?」

「何かあったけ?」

「あれだよ。最近またいろんな異能組織が問題になってて、俺たちと同じ中学出身の先輩が事件に巻き込まれたって」

「ああ、言ってたな。でも、最近だとそこまで珍しくもなくないか?ほら、なんだっけ、ネクサスって言ったっけ、あそこなんて学生がほとんどだって聞いたけど」

 



 ていうか、またそんな話か。

 まあ、最近はそう珍しくもないから仕方のないことかもしれないけど。


 昔は、ヤンキーとか不良とかで済んでいたかどうかは知らないが、まあ、学生のそう言った行動として対処が比較的可能ではあった。

 だが、異能はびこる現代では、そこらの学生の集団ですらも簡単に警察の対処できる存在ではなくなった。

 治安維持組織もいるけど、それが出てくるのは何か大きなことをしでかしてしまってからだろう。

 

 対処の難しい強い異能ってのはそうそう簡単に生まれることはないがそれでも未だ成人すらしていない学生が持つこともさほど珍しくもない。

 だから、俺はあの時、ツムギちゃんとつるんでいた人たちを見て不安を抱いたのだ。


 まあ、別に犯罪を起こさないのならいいけどね。


「あ、そうだ。リオ君、放課後空いてる?」

「うん。空いてるけど」


 そんなことを考えていると、ツムギちゃんは予定を訊いてくる。

 もしかして、いつものお誘いかなと思いつつ訊いてみることにした。


「それって、ユキナちゃんも来るの?」

「うん!私も行くよ」


 そう聞いて俺は安心する。

 てっきり、いつものあの人たちとのお誘いかと思ったが、この子も来るのなら普通に遊びに行くだけだろう。

 女の子が放課後集まっていくようなところに俺が行っていいかとも考えるが、今は見た目は完全に少女であり、学校の待遇でも女の子だ。

 まあ、それならいいだろうと思いつつ承諾した。


「あと言い忘れてたけど、「異能倶楽部」って名前で良いって」








 ◆


「で、なんだっけ、「異能倶楽部」?流石にダサくないか?」


 某所、とある裏路地。

 コンクリートの壁に挟まれたそんな場所で一人の男が呟いた。


「んなこと言ってもな……ウチのボスがそれじゃないとやりたくねーっていうんだよ」


 それに答えたのは、同じくコンクリートに背中を預ける男、梶野桐雅だ。

 呆れたような声を出す彼の姿は背中に刺繍の入ったスカジャンで見た目は完全に輩だった。


「まあ、俺は関係ないからいいけどな。それより、今まで使ってたネクサスって名前はどうすんだよ。今更名前を変えるには、この名前が広がり過ぎたんじゃないか」


 男が、指摘するように、年々を裏社会どころか表でも名が出回るようになったネクサスと言う組織、その名前を変えようと言うのは難しい。

 すぐに、浸透するようなことはないだろうと男は言う。

 それには、桐雅も同意をした。


「まあな」


 だが、桐雅自身そこまで気にしてないのか、次の言葉を続けた。


「だが、これでやっと、ボスが直々に拝めるぞ」


 桐雅は男にちらりを顔を向けてそう言った。


 前々から、男はネクサスと言う組織のボスを見せてくれと桐雅に頼んでいたのだ。

 桐雅自身、見たこともなかったため、今の今まで会わせるどころか、話しすらできていなかったのだが、やっと出来るとあってそう言った。

 それに男は、言葉を返した。


「まあ、長らく待ったからな。別に俺自身そこまで興味があったわけじゃないが、こっちのボスもうるさくてよ。やっと解放される」


 そう言って男は笑った。

 ただ、次の瞬間には、笑みを消して再度男は口を開いた。


「だが、分かっているだろうな。長らく正体不明であったネクサスのボスが姿を現すとあって、六大同盟を始めとしたさまざまな組織が注目している。今回の集会は荒れるぞ」


 ネクサスを含む、六大組織と呼ばれる組織同士で結ばれた「六大組織同盟」、通称六大同盟による集会。

 それにネクサスのボスが参加するとなれば、注目が集まり、更に襲撃も考えられた。


「わかっている」


 桐雅はそれだけ返した。


 そんなこんなで、ネクサス改め異能倶楽部のボスであるリオの預かり知らぬところでそんな会話がなされていた。

 まさか、今現在 自分がそんな状況にあるとも知らないリオは、今までにないほど充実した学校生活を楽しんでいた。

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