真相


 日曜の午後七時ごろ三つの連なるビルが爆発し轟々と燃えていた。

 年々競うように高さを増していくビルが多いこの辺りでも特に高い四つの内の三つのビルである。

 まだ完成間際と言うところで人がいるのは爆発を免れた今いるビルだけだ。


「ちょっと、ちょっと、ちょっとぉ!まずいよ!やばいよ!」


 そのビルの関係者である男は悲鳴を上げるようにして、焦った様子を声に出していた。

 普段は聡明で何とやらと言われる彼であるが今日ばかりはそうもいかなかった。


 何を隠そう、ビルが三つ吹き飛んだ原因は彼にあるからである。


「やばいって!上になんて説明すればいいのさ?ちょっと遊び心でテレビリモコン型の起爆スイッチ作って間違えて押しちゃったとか言えばいいの?」

「うるさいなぁ!今どうすればいいか必死で考えてるんだから、黙ってくれます?そもそも、問題はそこじゃなくて何で三つのビルの至る所に爆弾を仕掛けてることでしょ!」

「だってだってだってぇ!!僕が研究した装置を上が認めてくれないから……」


 炎上した三つのビルと今この男たちが居るビル、そしてそれら計四つのビルを所有する会社にある裏組織。

 そんな非合法な研究などを任された組織に所属する男は部下である女に泣きついていた。


 事の発端は、男が開発した異能移植装置を上に否定されたことによる鬱憤を晴らそうとしたことが原因だった。

 魔が差したのだ。魔が差しても普通はやらないが。


 この組織には彼が所属する研究部の他に荒事に対応するための部隊もある。

 むしろそっちが組織の存在理由であり研究についてはついでに一か所にまとめたかっただけなのだが。

 まあ、それは置いておいて、先日その部隊が敵組織から大量の爆弾を押収したのだ。


 異能溢れる社会になったことで、そう言った非合法的な組織は急増し、組織同士のいざこざも多く起きるようになっている。

 だから、今回もそこまで珍しいわけでもないのだが、しかし、珍しく敵組織は爆弾を多く隠し持っていた。

 異能だよりのハングレ集団のような組織も増えつつある現在、力を過信せず現代兵器を使うようなこの規模の組織は珍しかった。

 敵組織を壊滅させた後、残党に力をつけさせないために爆弾は回収された。

 だが、指定の場所に運び込もうとしたところで、警察や治安維持組織に目をつけられないように、一度このビルの搬入した。


 そして、この男の手に渡ったのだ。

 

 始めは爆弾を並べてドミノをして遊んでいた。

 しかし、見ていて思ったのだ。


「量多すぎじゃない?これもしかしたら、ビルくらいなら吹き飛ばせるのでは。研究室が作られたのはここのビルだけだから、あっち三つのビルには誰もいないからバレることもないし……」


 大量とは言え、ビル三つもと思われるかもしれないが運が悪かった。

 そもそも、この爆弾は既存のものと違うのではと思われていたため、このビルに搬入する過程で上がこの男に解析を頼んだのだ。

 そして、すでに、敵組織でつくられたその爆弾の正確な威力は解析され、相当な威力があるとわかっていた。

 だから、解析した張本人であるこの男は完璧なほど計算し尽くされた配置で爆弾を仕掛けて回った。


「結構あまったなぁ。そうだ!爆発させるのは上階だけにすれば全部で三つビルを派手に爆破できるぞ!」


 そう思い男は、倒壊しないように配置をしていった。

 思い描くのはビルの上部から火が立ち上る光景。


「こっちのビルにもつけたから……そうだなぁ。あそこの研究室のあるつけてないビルから眺める感じかな」


 四つのうち三つのビルにつけられた爆弾を満足げに見ながら研究室のあるビルに戻る。

 とは言っても、あるのは仮設の研究室だけでこちらのビルも完成はしていなかった。


「あ、コーヒー入れますけど皆さんも飲みます?室長もどうですか?」

「ふむ、貰おうか」

 

 臨時で作られた研究室だけがあり、上の階などコンクリートの壁しかない。

 そんなこの場所で世間話をして自身の席に戻った時には爆弾の存在など忘れていた。


 研究自体は爆弾の解明だけであったため、皆が帰り研究室には自身と一人の部下だけになった。

 部下はともかく彼は研究室に住み着く習性があるため、たとえ臨時の研究室で明日なくなったとしても帰ることはない。


「あ~今日日曜か。平日じゃないんだ」

「この仕事してると曜日感覚なくなりますよね」

「そうだね~。テレビって何やってんだろ。あれ?リモコンはっと、あったあった。なんで僕の机においてあんだろ」


 そんな些細な疑問と共に彼はボタンを押した。


 ──ピッ


「あ」

「え?」


 次の瞬間、轟音と共に地面が揺れた。






 そして、現在に至る。


「そ、そうだ!異能だ!」

「え?」

「さっきなんか上の方でピカッと黒い稲妻みたいなの見えたでしょ!アレのせいにすればいいんだよ!」


 名案とばかりに彼は声を上げた。


「そんなこと出来ないでしょ!バレたら首が飛びますよ!物理的に!」

「でも、そのまま報告しても同じだよね?」

「違います!その時飛ぶのは室長だけです!私悪くないです~!」

「そ、そんなぁ!待ってよ酷いよぉ!……良いよ、言われる前に報告してやる!」


 男は部下が抑える間もなく異能のせいだとして報告を完了させた。







 ◆


「ツムギちゃん!」


 そう言って楽しそうに話しかけてくるその子は毎日のように自分に話をしてくれた。

 彼が話すのは漫画やアニメのような話。


 当時、幼稚園の部屋の隅で積み木をしながら聞いた話をツムギは思い出す。


「──それで、大人になったら不思議な力が使えるようになるんだ!」

「大人ってどれくらい?」

「え、えっと、十歳くらい……かな」

「十歳は大人じゃなくない?」

「間違えた十一歳だ」


 ツムギは幼稚園でよくリオと言う男の子と遊んでいた。

 その当時、漫画やアニメのことはあまり知らなくて、その子の話が新鮮に感じたのだろうか。

 今になっては分からないが、とにかく楽しかったのは覚えている。


「俺は……えっと炎、いや、電気を出せるようになるんだ!普通のやつじゃなくて黒い電気?みたいなやつ」

「黒い電気何てあるの?」

「えっと、俺にしか出せないから普通では見れないよ」

「そうなんだ。じゃあ、十一歳になったら見せてくれる?」

「え!?……いや、うーんと、俺は……そう、十五歳にならないと使えるようにならないんだ。人には個人差?ってやつがあるから。それと本気の時しか出せない……かもしれないし……」


 そんな話をしていたが、それでも成長するとそれが作り話だとツムギにも分かるようになってきた。

 だから、家でふと母親にそのことを話したことがあった。

 ツムギの家はそれなりに力のある家で、典型的な金持ちの家であったが、母親との距離はそこまで遠くなかった。


「うーん。男の子はそう言うの好きだしね。それに女の子の方が成長が早いとも言うし。ツムギもその子のことが好きなら大人として今まで通り気にせず遊べばいいじゃない」

「す、好きって!?そんなのよくわからないよ」


 ただ、母の言った大人と言う言葉が気に入って気にしないで話すようになった。

 しかし、彼も成長する。しばらくすると今度は彼がその手の話をしなくなった。


「リオ君、いつものお話してくれないの?」

「え、えっと……もういいよ」

「組織を作るって話も私好きだったんだけどなぁ。強いけど他に居場所がない人たちを入れてあげるとか凄い素敵だし」

「もうその話は──そうだ。その話は二人だけの秘密にしよう。ほら、組織はバレちゃだめだから」


 そして、それきりその手の話をしなくなった。

 でも、相変わらず一緒に毎日遊んでいてこれからもずっと一緒に過ごすと思っていた時、突然引っ越しが決まったのだ。

 そして、離れ離れになってしまった。

 だが、ツムギは彼のことを忘れることなく思い続けた。


 そして、十一歳の時、異能が全世界に現れたのだ。


「不思議な力って……いや、それはないか」


 その時、真っ先の思いついたのは彼の話だった。

 しかし、偶々だとそう考えた。


 それに、彼を監視しているがそう言ったことはしてないようだし。

 それから、彼女は彼の家に仕掛けた監視カメラを見て過ごすことが多くなった。

 幼稚園児では行動になかなか移せなかったが、今の彼女であればこれくらいは出来る。


「ん。でも、念のため組織の幹部くらいは集めておいた方が……。本当に必要がなければ、いざとなれば、私が使えばいいし」


 そして、日々を過ごすうちにもしかしたらと思い始め彼女は人員を集めた。

 とりあえず、自分を含め、七人。

 彼の構想の組織幹部と同じ人数。

 ツムギは金にものを言わせて能力が高いものを探し出して組織に勧誘した。


 更に時は過ぎて、やはり早とちりであったかもと流石の彼女でも思い始めたころ、ついに彼は異能を発現した。

 そして、何故か女の子にもなっていた。

 彼女は自身の目を疑ったが、しかし、監視カメラのも映っている。

 それに彼は慌てた様子もなく着替えをしだす始末。


 だが、彼は言った。


『ハッハッハッ!ついに俺の時代が来た!!』


 これはきっとここから動くと言う事だろう。

 時は熟した。


「会いに行こう!」


 彼女はPCをパタンと閉めると席を立った。

 そして、すぐに家を出たため、異能のショボさに「……あれ?お、終わり?」などと言っている姿を見ることはなかった。





「どうしよ。なんていって入ろうかな」


 彼女はそんなことを言いながら、リオの自宅を見渡せる雑居ビルの上で望遠鏡をのぞき込んでいた。

 ちなみにあれから二日経っている。

 日和って接触出来てないのだ。

 その間何度か家に帰っては戻ってきている。


 リオが一人暮らしを始めて、近くに戻ってきていたため、あまり、家との距離はなく難なく行き来できる程度で一応暗くなれば自宅にも戻っている。


「いや、取りあえず近くまで行ってみよう」


 とりあえずと言うには、時間が経ちすぎているような気もしなくもないが。

 流石に明日からは平日で動きづらいだろうと考えた彼女は決心して彼の部屋のベランダに向かった。

 正面から入る勇気はまだない。


 ベランダから見る彼はとても素晴らしかった。

 TSしたとはいえ、存在自体を愛する彼女は気にせず、リオとして少女を見ていた。

 しかし、彼女から絶景でも、もし、部屋の中からツムギを見つけてしまえばどう見てもストーカーの類に見えることは間違いないだろう。

 そして、ツムギはミスを犯した。


「か、可愛い!!」


 自撮りする彼のウインクにつられて声を出してしまったのだ。

 窓越しとは言え、曇った声が彼の耳に届いた時点で身を隠すのには失敗してた。

 そう、すぐに悟った彼女はすぐに行動を起こした。


 目にもとまらぬ早業でガラスを割った。

 その時、音が出ないように細心の注意を払った。

 三角割りをしようとも打ち破り、焼き破りをしようとも音が小さくなることはあっても全くでないなどと言う事はない。

 だが、彼女は特殊な技法を使用し音を出さずにガラスを突破した。

 これは、異能でも何でもなく、彼女の変態的センスと才能によって身に着けた技能であった。


 一瞬で部屋に侵入した彼女は強化した身体能力をフルで活かし彼の腕をつかんだ。


「落ち着いてよ。リオ君」

「……ッ!?」


 しかし、実際落ち着いていなかったのは彼女であった。

 ほぼ、パニック状態で何をしているのか分かっていない。


「ん?どうしたの?やっぱり信じられない?確かに私、幼稚園の時と比べたら成長し過ぎちゃってるからなー。あ!わかった。証拠を見せればいいんだね?リオ君とした約束のこと」


 自己紹介は完了してなお動揺するリオの態度を見て彼女はそう言った。

 そうだ。よく考えれば別人が幼馴染を名乗っているかもしれないと。

 そして、彼女は幹部に召集命令を掛けて夜空へ跳んだ。







 ◆

 

「オイ、千佳。どうだ?」

「うーん。上には異能だと報告してるくらいしかわからん」


 ツムギに集められた幹部の一人、梶野桐雅はキーボードをたたく少女の座る椅子の背もたれに手を添える。

 そして、同じく幹部に名を連ねる川原千佳は画面を見つめる。


「多分、ビルを所有する会社の手の組織のものがいたか分からないけど、あの時刻に送られた信号は捉えてる。暗号化されてるけど、書いてあることはただ『異能である』とだけ」

「他の情報源はないのか?」

「あっちの本部にハッキングなんて映画みたいなことは出来ないし、つーかバレるし。それに、周囲にあった他の異能探知機の類の履歴が完全に消去されてる。多分消したのは報告をした組織のものだろうし結果は変わらないだろうけど」


 千佳はPCから発せられる光を顔に受けてそう断言する。

 他ならぬ被害を受けた側が本部へと『異能である』と信号を送っている以上疑うこともできなかった。


「時間差があったこととか、怪しいことも多いけど、あの異能を否定できる証拠はない」

「やはり、あれは本物と言う事か。能力の効果の遅延もできると考えた方が良いか。しかし、態々、自身が飛び散ったガラス片などから身を隠すためだけに高度な技術すらも使うとは、底が見えないぞ」


 桐雅はあの時のリオの異能に対しわずかながらの疑問を持っていた。

 だが、此処まで調べて結果がこれならあのパーカー少女が相当な異能の使い手と見た方が良いだろう。

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