第四話 月光の狼・定例会議
ここはラフレスタ商業地区のとある商会建物の地下に設けられた一室。
時刻は真夜中だったが、控えめの照明に照らされた小奇麗な部屋には机を囲み二十名ばかりの人間が集まっていた。
ここでリーダー格の顎髭を生やした男性が口を開く。
「それでは、月光の狼の定例会議を始めるとしよう」
そう述べて自ら着席すると起立していた他の男達も次々と席に着く。
各位が手慣れた所作を示しており、この会議がそれなりに続けられてきた実績として物語られている。
「さて、はじめの議題は先日のリッカーズ男爵宅作戦の報告だな。ベン、お願いする」
「へい、わかりやした」
強面顔大男のベンと呼ばれた男性はその口調も相まり山賊さながらの様相ではあるが、その豪快な姿に似合わず小さい紙にまとめられた資料を手に持ち報告を始める。
「先日のターゲットはラフレスタの貴族街にあるリッカーズ男爵が所有する別邸へと侵入してきやした。俺とエディで侵入し、事前情報どおり隣国ボルトロールに内通している事を示す機密文書を発見しやした。これは裏切りの証拠品として奪取してきていやす」
そう言って奪取してきた書類を高々と掲げる。
「書かれていた内容は予想どおり、ボルトロールにちょっとした情報提供と細かい便宜を図ることで、結構な金を貰っていやした。奴はこれで一千万クロルほど荒稼ぎしていたようです」
会場がざわつく。
一千万クロルという金額はそれなりの価値で、普通の商人が約二年がかりで稼ぐ大金だ。
「続けてくれ」
ざわつく会場をリーダーが鎮め、報告の続きを促す。
「へい。いつものように盗賊の犯行のように見せかけるため、証拠文書を偽物にすり替え、少しの金品を頂いてきやした。この部分だけで見ると作戦は成功でやしたがぁ・・・」
ベンは嫌なものを思い出すように顔を顰め、そして、喋るのを一旦区切る。
「屋敷を出たところでヘマをしちまって、警備隊の小僧に見つかっちまったんでさぁ」
自分の失敗を報告しなくてはならないのはあまり気分の良いものでは無い。
しかし、これも義務だと割り切り、ベンはその時の様子を皆へ報告する。
「道具で完全に気配を消せていたので、まぁ出会い頭の偶然だと思いやすが・・・まぁその時は小僧一人だったのでちょっと相手をしてやったんでさぁ・・・ですが、その小僧の奴、なかなか粘りやがって、手こずっている間に小僧の仲間が二人やってきて、さすがにこれ以上は不味いと思いやして、エディと一緒に現場からの逃走を選択しやした」
「その後の展開は私も知っている。こちらから説明しよう」
ここで月光の狼のリーダーはベンから話を引き継ぎ、顛末を説明する。
口調も悪く、あまり話上手ではないベンからすれば、喋ることが上手いリーダーに説明が移ることで、聞取り易くなる・・・一部の人間はそう思い安堵していたりする。
「統領、すいやせん」
自分の欠点を自らもよく解っているベンは恐縮しつつもリーダーに説明を代わって貰う。
ベンは席に着いたので、彼の発言はここまでとなる。
そして、皆の注目はこの集団のリーダーであるライオネルに集まった。
「ベンとエディは逃げる事を選択したが、相手をしていた若者の仲間が更に近くにいた警備隊へ通報したようで、結果、一個小隊に追われる羽目となった。これが解った私も待機していた場所から飛び出し、敵の注意を逸らしつつ、ベンとエディに合流して、逃亡を促すことにした」
申し訳無さそうにベンとエディが頭を掻く。
「しかし、運悪い事は続くもので、アリオン通りを少し過ぎたところで別の警備隊と挟み撃ちに合ってしまった。しかも、相手はあのロイ隊長が率いる第二警備隊だ」
この話を聞いていた者達にざわつきが漏れる。
月光の狼の中でもラフレスタ第二警備隊を率いるロイ隊長の名は厄介者として有名だったからだ。
今まで月光の狼のメンバーで警備隊の連中に捕まったり、殺されたりした者はいなかったが、それでもこのロイと対峙して相当な怪我を負った者もいる。
そのため、要注意人物としてロイ隊長を警戒している。
特に最近、自分達はある魔道具のお陰で多少の荒事を乗り切るだけの自信もあったが、それでもロイ隊長の率いる第二警備隊との接触はできるだけ避けるべき、とするのが彼らの常識であった。
「敵二十人数に囲まれて戦闘になってしまったが、運が良かったのはロイ隊長を早い段階で沈黙させる事に成功した事だ」
ロイ隊長を倒したライオネルに仲間から称賛の声を受けるが、ライオネルはそれをたいした事はないと制して、状況の説明が続けられる。
「そして、時間を稼いでいる間に白魔女エミラルダが現場に駆け付けてくれて、事態を脱する事ができた」
「白魔女殿が協力をしてくれたのかね」
それまで話を黙って聞いていたライオネルと反対側に座る初老の男性が初めて口を開く。
「ああ。彼女は何かと協力してくれるさ」
「しかし、あの白魔女殿が月光の狼の構成員になったとは聞いていないが・・・」
「確かに彼女は正式に我々のメンバーではないさ。そうだな・・・私と個人的に契約しているようなものでな。もしかしたら私に惚れているのかも知れないなぁ。ワハハハ」
カラカラと笑うライオネルの姿を目にした初老の男は、このときの彼が果たして冗談を言っているのか、それとも本気なのか解らなかった。
このライオネルという人物を一体どう受けとめたらいいものか判断に迷う。
そんな老人の狼狽を満足したのか、笑みを浮かべたライオネルは気を良くして話を次に進めることにする。
「まぁ、そんな事もあったが今回の作戦は成功としよう。リッカーズ男爵の裏切りを示す密書は然るべき革命を起こす日に役に立ってくれるだろう。そして、賊の犯行のように見せかけるために奪った金品もいつもどおりラフレスタの孤児院へ寄付して、我ら『月光の狼』が義賊たる所以を宣伝するのだ」
「「ハッ!」」
月光の狼のメンバー達はリーダーの指示に従い、小気味の良い返事を返す。
これを観察していた初老の男は月光の狼の士気の高さを感じつつも、最近になってこの義賊団が妙に成果を出せている理由もよく解っていた。
(こいつらと共闘するのは間違っていない判断だと思う。成功の秘訣はやはりあの魔道具の存在だ。我々も何とかして使わせてもらえば・・・)
初老の男は心中思う事を決して顔には出さないように努め、再び会議の進行を見守る姿に徹する。
こうして会議は進んでいく。
様々な活動の成果を掻い摘んで報告するライオネルを黙って聞く初老の男だが、やがて、最後の議題となり、初老の男はようやく自分の番が回ってきたことを知り、目を開ける。
「さて、最後の議題だ。サルマン殿、君の組織『アレックス解放団』との協力体制について協議をしよう」
ライオネルの言葉に初老の男サルマンは待ちきれなかったようで顔から笑みを浮かばせて口を開いた。
「ああ、儂らは事前に協議したように『月光の狼』と同じ志の元、貴君らの革命に参加しても良いと考えている。既に団員達の合意は取ってある。最近の君達の功績は帝国の南方で活動する我々の耳にも入ってくるぐらいだから、猛者揃いの我々に異論を唱える者はいなかったさ」
正確に言うとこの時のサルマンの口上は嘘であり、実際には月光の狼と共闘するのをアレックス解放団の構成員―――特に古株は―――渋っていたりする。
彼らには月光の狼が豊富に持つと言われる魔法の武器を供給してもらうことで、現状が打開できる、という見返りをサルマンが熱心に説明したことで、ようやく説得する事に至っている。
それほどまでにアレックス解放団の革命活動には行き詰まり感があり、求心力の下がっているサルマンには打開策が必要だった。
これが今回の会談につながった背景だ。
ライオネルは「ふむ」相槌を打ち、気持ちいい顔でサルマンに応えた。
「南方の勇たる『アレックス解放団』に、我々の事をこうまで言われるのは光栄の限りだ」
サルマンのおだてに乗る形だが、実はライオネルもこの時、ある情報筋よりサルマンの思惑を正確に把握していた。
構成員の多い『アレックス解放団』という組織は虐げられた少数民族の解放という大義の元、その名を馳せている革命組織である。
エストリア帝国南部を活動拠点としており、帝国政府に対して武力衝突も辞さない武闘派の集団組織だ。
構成員も猛者揃いで、帝国の討伐隊を退けたことも何度かあり、革命組織の中ではひとつ抜き出た存在でもある。
しかし、それが「かつて」の話になりつつある事もライオネルの持つ情報網で把握していた。
結成当時の指導者アレックスは既にこの世を去り、組織を受け継いだのは腹心だったサルマンという男。
彼には指導力の欠如があるらしく、構成員の人心が離れつつある噂も掴んでいた。
そして、当のサルマンも愚かな男ではなく、その事実を受け入れる程度に優秀な人材であることもライオネルは把握していた。
サルマンはこの事態を打開すべく月光の狼・・・と言うよりも、白魔女の提供してくれる魔道具の力を利用するため、月光の狼との協力関係を模索してきたのだ。
ライオネルとしても、ただ利用されるのは面白くないものの、それでも『アレックス解放団』との協力関係については渡りに船でもある。
彼が想い描く革命を実行するには数の力や武力も必要不可欠であることを理解している。
それほどに自分達も後戻りできないほど革命への機運が高まっている、とライオネル自身も自分の内なる声を信じることにした。
結局、互いに利用し合うのが落とし所だ、とライオネルは結論付けて、今回はサルマンの思惑に乗る事にした。
勿論、彼らを無下には信用できないため、首輪をつける事も忘れない。
「月光の狼はアレックス解放団の申し出た契約書の案どおりに協力体制を受け入れたいと思う。そして、君達から要望を受けていた武器供与についても約束をしよう」
ライオネルの言葉にサルマンは安堵の表情を浮かべた。
「貴君らの英断に感謝する」
サルマンは内心、自分の思惑どおりに事が進んだのを歓喜して小躍りしたい気分になったが、それをなんとか年長者の意地で我慢することに成功する。
しかし、ここでライオネルは当初の契約書には書かれていなかった事を言葉にする。
「まずは手始めに武器供与の件だが『魔女の腕輪』と『魔法付与の短剣』を五十組供与しよう」
サルマンの眉が少し上がる。
「それは早速ありがたいが・・・当初の契約内容よりも数が少ないな」
「まぁ、最後まで話しを聞いて欲しい」
「・・・・」
「そちらの組織が我々の武器をどのように評価をしているのかは私には解らないが、これは驚くほどに戦闘力を上げことができる魔道具なのだ。用意するのもそれなりに準備が必要」
「それは我々も噂に聞いている。腕力を向上させる腕輪と岩をも簡単に切断できると言われる魔法の短剣の事だろう」
「さすが情報に明るいな。この魔道具の性能は使い手の個人差にもよるが、『魔女の腕輪』は通常より五割増しの腕力向上と俊敏性を上げる事ができる代物だ。しかも、魔法効果の持続時間は長く、魔力消費は驚くほどに少ない。とても効率が良いのだよ。うち者でも魔力を節約して使えば八時間は連続使用が可能な代物でね」
「それほどまでに!」
ライオネルの言葉に驚くサルマン。
画期的な性能である、と噂には聞いていたが正確な数値を聞いたのは今が初めてだった。
これほどまでに性能が発揮できる魔道具をサルマンは今まで聞いたことがない。
尤も、魔道具と言う贅沢品については、普段からそうそうと接する機会も少ないのだが・・・
今まで彼の知る限り、腕力の向上ができる魔道具は腕力を一割程度増す事がやっとだ。
しかも、その魔道具の魔法持続時間は数十秒間が限界であり、しかもデリケートな代物で、連続使用すると壊れてしまったりする。
これが多少なりとも流通している一個百万クロルする高級品の魔道具の実力であった。
市場で流通している魔道具よりも質の良いものを月光の狼達は使っていると噂されていたが、噂以上の性能に驚かされるサルマン。
「しかし、この魔道具にも欠点がある。付与されている魔力が二ヶ月で抜けてしまう。二ヶ月経つとただの腕輪と剣に戻ってしまうのさ」
ライオネルから出た突然の欠点の言葉にサルマンは唖然となる。
先ほどの喜びから一気に谷底に落とされた気分だ。
そんな情報、今まで聞いていない。
「なんだと! そんなのは聞いてないぞ」
思わず立ち上がり顔を強張らせる。
武闘派革命集団の長だけあり、それなりに迫力あったが、ライオネルは涼しい顔をしてこう続ける。
「そりゃそうだ。私も今、初めて伝えたからな。ハハハ」
いつもながらに飄々とした態度を続けるライオネルにサルマンの苛立ちは加速的に増加する。
「まぁ落ち着けサルマン。この欠点は我々にとっては安全装置にもなるのだよ」
着席を促され、嫌々ながらも再び席に着くサルマン。
「理解しているように、この魔道具は非常に強力な武器だ。現在、出回っている魔道具の中でも群を抜いて腕力の底上げができ、しかも小型で扱いやすい。その上、どんなに魔力の少ない人間にも使えて、魔力消費も少なく、効率面でも一級品だ。つまり、腕輪を付けたその日からズブの素人が、歴戦の戦士に早変わりできる。パワーアップできるのは腕力だけじゃない。脚力や持久力、視力、判断力だって底上げされる。慣れと使いようによっては普通の剣や弓では簡単に傷つく事もなくなる。まさに夢のような武器さ。我々のような弱小活動家が短時間に現在の地位を得られたのも、この魔道具のお陰と言っても過言じゃない」
ライオネルは自分の袖を捲り、魔法の腕輪をサルマンに見せつけた。
「しかし、これも所詮は道具なのだ」
腕輪を元へと戻し、サルマンを直視するライオネル。
ライオネルは和らげた口調と人を食ったような態度を交互に示すが、目の奥は笑っておらず、サルマンはライオネルの眼力により抑え込まれている事に気付かないまま、その場に縫い付けられていた。
「そう。これが敵に鹵獲されたとき、その優位性が逆転する。今度はこれが我々の最大の脅威になってしまう危険性もあるのだよ」
ハッと気づくサルマンを見て、ライオネルは我が意を伝わったと確信し、説明を続けた。
「そのために二重の安全機能を施してあるのだ。ひとつ目は魔道具と使用者は契約の呪文で登録する。登録してしまえばそれ以外の者は使用できなくなるが、この製作者たる白魔女が言うにはそれでも完璧ではないらしい。専門家が腕輪の魔法機能を解析してロックを解除する事も技術的に可能なようだ。我々には到底無理だがね・・・」
ここでライオネルが何を言わんとしているか、薄々気付くサルマン。
「そこで、ふたつ目の安全対策として、魔力の期間限定か?」
「そのとおり。理解が早くて助かるよ。サルマン殿」
ライオネルは芝居がかったようにゆっくりと立ち上がり、まだ理解の進まないサルマンの部下に解説を続ける。
「そのとおり。敵にこの魔道具を鹵獲されても、魔道具を期間限定で使い続けられないようにすれば、驚異はグッと下がるのだよ」
サルマンの部下達もようやく理解できて、場の緊張感は少し和らいだ。
しかし、サルマンは思う。
この魔道具を安定的に使い続けるためには『白魔女』や『月光の狼』との協力関係を持続することが必要不可欠となる。
月光の狼はまだしも、白魔女という人物は本当に信用できるのだろうか?
この人物についても当然の如く徹底的に情報収集を行ったが、ほとんど何も解らず仕舞いの謎の女性であった。
情報はこれほどまでに隠匿されている事で、逆にサルマンはこの女性に対して強い警戒心を持っていた。
その上、自分達がヘマをやらずとも、月光の狼と白魔女の関係が悪化した場合も、この魔道具は使い物にならなくなるだろう。
果たしてそんな不安定な物を頼っても良いのだろうか?
命を預ける存在になる魔道具に不安要素が付きまとう。
そんなサルマンの迷いを見逃すライオネルではない。
「その様子だと、我々と白魔女との関係を信用していないな。まぁ解らずともないがね」
ライオネルは話を続ける。
「我々も二ヶ月経つと魔道具が魔力切れになるが、その都度、白魔女には魔力を充填して貰っている。彼女は信用に足る人物さ」
「白魔女殿以外の者で魔力を充填できないのか?」
「我々は試した事がないが、恐らく無理だろう」
「随分とその・・・なんと言えばいいのか・・・白魔女殿はずっと協力してくれるのか?月光の狼の構成員ではないのだろう? それは、君に対して忠誠を誓っていない事になる。ただの武器取引の相手ではないんだぞ。そんな人物を本当に信用できるのか?」
そんなサルマンの疑問に対して、ライオネルを含む月光の狼達からは不敵な笑みを浮かべた。
「ハハハ、そうだな。たしかに白魔女は私に忠誠なんか誓っていない。しかし、心配はご無用。白魔女と私は対等の関係だ。月光の狼と白魔女の間には格段の信頼関係があるので、互いに裏切ることは絶対にありえないのさ!」
ライオネルはバッサリと白魔女は信用できる人物と断言する。
それは安易に人を信用しすぎなのではないか? そんな口上がサルマンから出かけだが、それよりも早く、月光の狼の構成員達から口々に白魔女に対する称賛の声が溢れることになる。
「白魔女様が私達を裏切る事は考えられません!」
「白魔女様は絶対に信用できる。あんな慈愛に満ちた方は他にいない。統領と伴に我々を導いてくださるお方だ」
「「そうだ! そうだ!」」
他にも白魔女を称賛する声がしばらく続くが、もう十分だとライオネルは手で彼らを制した。
「諸君たち静粛にしたまえ。サルマン殿、申し訳ない。我々の――特に若手は――彼女に心酔している者も少なくないのだ。これも、我々と白魔女の間に良好な信頼関係が存在している所以なのだよ」
「しかし・・・」
まだ納得いかないサルマン。
「まぁ案ずるな。白魔女と我々の信頼関係については私が保証しよう。もし、白魔女が我々を裏切って多大な損害が発生した場合、私が責任を取りこの組織のトップを引退する。月光の狼の組織と豊富な資金はサルマン殿に引き継いで貰っても構わない。それでどうだ?」
その言葉にサルマンはしばらく黙り込む。
彼の頭の中で損と徳を天秤にかけているのだ。
月光の狼は活躍も目まぐるしく、その実績から着実に構成員も増えている。
自分達と同じようにこの組織に加わろうと考える団体も今後増えるだろうと聞く。
数年後には帝国でも無視できない一大組織に成長するだろう。
資金だって馬鹿にはならない。
統領であるライオネルの表の顔は、今、ラフレスタで一番成功している商人でもあり、莫大な富を集めている。
サルマンの短くない思慮の結果、やがて利益の方が勝った。
彼は「解った」と短く答えて、この賭けに乗る事にした。
「白魔女は信用に足る存在だ。サルマン殿もいずれ解ってもらえると思う。しかし、彼女は我々のような思想家ではなく、純粋な意味での魔女だ。我々と魔女は信頼し合っているが、それでも互いの利益のために協力していると言っても過言ではない。私の本業・・・おっと失礼、ここでは副業だったな・・・私も商人なのでね。利益追求によって結ばれた契約は一時的な感情で結ばれた約束事よりも信用できると思っているんだよ。ハハハハ」
「思想家としてはどうかと思うところもあるが・・・まぁ、君は商人として大成功している人物だ。その実績も含めて今回は君の判断を信用することにしよう」
「ありがとう、サルマン殿。これでアレックス解放団と月光の狼の同盟契約は締結だ」
固い握手を交わす二人、両陣営から拍手が起こる。
月光の狼という組織がまたひとつ大きくなった瞬間であった。
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