第12話
案内されたのは、庭の東屋。お茶会の時によく使わせてもらっている場所だ。そこには、すでに二人の先客がいた。
「あ、ヴィオ姉様!」
「やっときた」
私の姿を捉えた二人がこちらに反応する。一人は、パッっと笑顔になってこちらに手を振ってくれる。
「お久しぶりです。ヴィオ姉様」
リリー・ウィンター公爵令嬢。アルベルト殿下の婚約者で私の一つ年下の従姉妹。『ヴィオ姉様』と呼んで慕ってくれている。ものすごい美少女で、もちろんモテるが、リリーを口説こうものなら、アルベルト殿下に社会的に殺さr…いえ、色々とまずいと噂されている。幼い頃からの、アルベルト殿下の懸命な牽制により、年頃の男性は話しかけられなくて、本人は自分がモテないと思っているのである。
(そのせいでリリーの自己評価が限りなく低くなって、折角婚約まで取り付けたのに、一回逃げられたんだよね…)
まぁ自業自得だ。
「遅いわよ、ヴァイオレット」
不機嫌顔ででこちらを見るのは、メイプル・フォール公爵令嬢。フォール公爵家の長女で、あのユリアスの双子の姉。フォール家の特徴である、綺麗な金色の瞳を持っている美女で、少し言葉がキツイが…
「またまたぁ〜、メイちゃん、久しぶりにヴィオちゃんに会うの楽しみにしてたくせに〜」
「そ、そんなことない!」
実際はただのツンデレである。それは私たちもわかっているので、最近ではメイプルの言葉には、副声音が聞こえるようになっている。本当の気持ちを代弁された時の反応が可愛いので、今日も今日とてルピナスに揶揄われている。
「まぁ、あの頭の中お花畑の王子様のせいで、一ヶ月近くもヴィオちゃんに会えなかったのが寂しかったのは私もだけどね〜。ほんとあのバカは、あっさり優しい優しい聖女様(笑)に落ちて。ヴィオちゃんの何が不満だったって言うのよ」
ルピナスがニコニコ笑いながら言う。しかし、その手元の扇子はキリキリと音を立てながら、今にも折れそうだ。
「リース伯爵令嬢ね。あの子、エドワード殿下に言い寄られて断りきれなかったらしいのよね。謝罪の手紙をもらったわ」
私は、椅子に座らせてもらいながら言う。
「いくら聖女とは言え、一介の伯爵令嬢じゃ第一王子の誘いを断るのは無理だもの。マーガレットは、ヴァイオレットにやられたなんて一言も言っていないはずよ。」
「要は、勝手にエドワード殿下が、マーガレット様に惚れて、言い寄って、それをマーガレット様は断れなかった、という事ですね。浮気者ですね…」
メイプルの言葉にリリーが頷きながら答える。
「私はてっきり二人が恋仲なのかと思っていたのだけど、違ったのね」
私は、紅茶を啜りながら苦笑いする。私の元婚約者は、ただの浮気者のバカってことね…
婚約破棄できてよかったわぁ。
「まぁ、ヴィオちゃんもそんな浮気者とは無事婚約破棄できたんだし、この話題はやめて、リリーちゃんの惚気話聞きましょ〜」
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