第9話

「え、もうこんな時間?」


応接間から部屋に戻ってきた私の目に映ったのは茜色の空。一時間くらいかと思っていたのだが、三時間は経ってる。


「折角、小説を書き始めようと思っていたのに…」

残念…。でも、ユリアスの話は面白かったからいいか。

「しょうがない。明日も暇だし」


そう思った私は、素直に寝ることにした。夕食を食べて、湯浴みをして、私はベットの中に入った。


「マリア、おやすみ」

「おやすみなさいませ、お嬢様。良い夢を」

☆ ☆ ☆

久しぶりに夢を見た。前世の…桜の記憶だ。


「久しぶり」


桜は何かに話しかけていた。何に話しかけているのか見てみたいけど、そこだけモヤがかかったように見えない。


「大人って忙しいわ。夏休みしか帰ってこれないもの」


前回見た時よりもだいぶ大人になった。多分24、5歳くらい。もう立派な社会人だ。


「今年も誕生日プレゼント持ってきたよ。ここに置いとくね」


桜は悲しげに笑いながら、カバンから取り出したものを何かに置き、そのまましゃがんだ。


「…返事はくれないのね」


しばらくプレゼントを見つめていた桜の目からポツリと一粒の涙が落ちた。それに続けるように、二粒、三粒、四粒、次々に涙が何かをを濡らす。その瞬間、モヤが一気に晴れたように、桜が話しかけていたものが見えた。


『石…?いや、これお墓だ…』


私は思わず声に出す。慌てて口を塞いだが。桜は全く気にしていない。どうやらこちらの姿は、見えないし、声も聞こえないようだ。


「ねぇ、なんで先に行っちゃったのっ…!私を置いて…!」


桜は、涙で墓石を濡らしながら、そこに座り込む。まるでどこかに取り残された子供のようだ。


「あれから七年も立つのに忘れられない…見た目は大人になっても、私の中の時間はあの頃のままよ…!」


七年前に何があったのだ、前回の夢では幸せそうに笑っていたのに。


『あれ、そういえば最後の17歳の記憶…』


そこまで思い出して、頭に痛みが走った。またこの痛みだ。思い出せない。何か大切なことを忘れてしまっている気がするのに…


パチッ


目覚めは最悪だ。頬に手を当ててみると濡れていた。寝ている間に泣いていたみたい。窓の外を見て見ると、生憎の雨模様。なんだか余計にテンションが下がった。


「でも、何もしないでいるのはどうせ暇だし。物語、書こうかなぁ」


私は、昨日書けなかった物語を書くことにした。と、言ってもいきなり書ける訳じゃない。キャラクターの設定と、大まかなストーリーの構成。まずは、これから始める。

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