第8話
「お待たせ…」
「お、今日は遅かったな」
「まぁね」
もっと早く来ることも可能だったがけれど、来るタイミングが悪すぎて、少しムカついたのでわざとゆっくり準備した。八つ当たりもいい所だし、ユリアスにとっては、ただのとばっちりだ。
「ところで、社交界の様子はどう?」
「まぁ、いつも通りってとこだな」
後になって、少し罪悪感が芽生えて来た私は、強引に話題を変える。聞きたい事は、最近の社交会の様子。私は、一ヶ月前に婚約破棄されたばかり。今、社交界に出たら、噂の的になるのが目に見えている。だけど、社交会の情勢や噂はコロコロと変わる。なので、月に1回は我が家に遊びに来る、ユリアスから聞いている。ありがたいけれど、こんな頻繁来て暇なのか?
「あ、そうそう。キューバ伯爵家の令嬢がネイチャー侯爵家の次男と婚約したらしい」
ユリアスが思い出したように言う。
(へぇ、キューバ伯爵家が、ネイチャー侯爵家と婚約…って)
「なんですって!?」
私は思わずガシャン!と音を立ててカップを置く。淑女としてよろしくないけれど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「第一王子派のネイチャー侯爵家次男が、第二王子派のキューバ伯爵家に婿入りって、ネイチャー侯爵家が第二王子派に鞍替えしたようなものじゃない!?」
この国には二人の王子がいる。私の元婚約者である第一王子エドワード殿下。そして、一ヶ月前の舞踏会で会った第二王子アルベルト殿下。
基本的に、王太子には第一王子がなるが、エドワードは今だに立太子していない。それは、エドワードが人を疑わず信じやすいく、王族の価値や発言の重さをいまいち理解していない傾向にあるからだ。人を信じるのは悪いことではないが、王になるにはそれなりに人を疑わなければならない。その点、アルベルトは王族としての振る舞いがしっかりしていて、価値や発言の重さがわかっている。
だから、この第一王子であるエドワードを推す第一王子派と第二王子アルベルトを王太子に推す第二王子派、どちらにもつかない中立派に貴族たちは別れている。
ちなみにスプリング公爵家は、元々第一王子派だったが、現在中立派だ。婚約破棄されたのにわざわざついてやる義理もないし。
「大方、ヴァイオレットの婚約破棄騒動で第一王子に見切りをつけたんだろう。今回のネイチャー侯爵家を皮切りに、これからまともな貴族はどんどん第二王子派に鞍替えしていくぞ」
「そうなると、アルベルト殿下が王太子、エドワード殿下は臣籍降下かどこかの国に婿入りかな?」
完全に社交界の情勢が変わる。次に社交界にでた時に気を付けなきゃ。
「ユリアス、ありがとう」
「こんくらいお安いご用だ。幼馴染のためだしな」
ユリアスがニッと笑う。いつにも増して頼もしく感じる。
(本当にいい幼馴染だ)
私は、改めてそう思った。
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