第6話

(ユリアス視点)

泣き疲れて眠ってしまった、幼馴染を見て俺はため息をついた。


(これは…)


チリンチリン

メイドを呼ぶために、ベルを鳴らす。

すると、一分も経たないうちにヴァイオレット付きの侍女、マリアがきた。


「これは、どういう状況ですか?まさか、お嬢様に…」


マリアがこちらを睨んでくる。それだけで人を殺せそうなほど視線が鋭い。


「イヤイヤイヤイヤ、出してない、手は出してない。泣き疲れて寝ちゃっただけだ」


俺は必死に弁明する。誤解されて、スプリング公爵にでも伝わったら、殺されかねない。…いや、確実に殺される。


「そうですか。ならよかったです」


マリアの表情がもとの無表情に戻った。考えている事が分からないな。ヴァイオレットは分かるって言うけど、普通は分からないぞ?


「では、私達は戻りますね」


そう言って、ヴァイオレットに近づいたと思ったら。軽々と持ち上げた。ヴァイオレットより身長が低いはずのマリアが、だ。


「相変わらず、すごい光景だな」


俺は思わず苦笑いした。


「いえ、このくらいお嬢様の護衛として当然です」


マリアはさも当然という風にいうが、侍女と護衛を兼任している時点ですごい。それも公爵家のお嬢様の。


「それでは、今度こそ失礼します」


こうして、マリアはヴァイオレットを抱えて扉の向こうに消えて行った。

☆ ☆ ☆


(にしても、なんか今日のヴァイオレット、いつもと違ったな。)


公爵邸へ帰る馬車の中。俺は、ふと幼馴染の様子が少し違った事を思い出した。

劇的に変わったというわけでわないけど、今まで俺が遊びに来ても、急いで準備したことなんてなかったし、何より人前で泣くという事はしなかった。何か変わるきっかけがあったのか。


(やっぱり、この間の婚約破棄騒動か…?)


いや。何か違う気がする。


(そういえば前世にあったなぁ、王子がヒロインが好きになって、婚約者を捨てる小説が)


そう、俺には前世の記憶がある。前世は高二で交通事故に遭って死んだ。別に後悔はしていない。自分に前世の記憶がある事に気付いたのは、5歳の時だった。その頃は混乱して、かなりおかしな行動をしていたが、子供だったのでそこまで注目されず、今は現実を受け止めて普通に生活できている。


(ヴァイオレットに何があったんだ…?)


俺は家に着くまで、悶々と幼馴染について考えていた。

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