第5話

とある日の朝。私が優雅に朝のティータイムを楽しんでいると…


コンコンコン


と、ドアがノックされた。


「入りなさい」


入室を許可する。

するとバノスが入ってきた。彼はスプリング家の執事で、私が生まれる前から公爵家に支えているらしい。


「失礼しますお嬢様。フォール公爵令息がいらっしゃいました」


ゆっくりと話すバノスは、相変わらずいくつなのか分からない。


「ユリアスが?」


ユリアス・フォール。フォール公爵家の長男で私の幼馴染。フォール家特有の金色の瞳を持つ美青年で、令嬢たちにはモテるが、婚約者はいないらしい。


「はい。先ほど応接間へお通しいたしました」


待たせているのか。なら急がなければ。


「分かったわ。すぐに支度をしていきます」


私は、急いで支度を始めた。

☆ ☆ ☆

「お待たせ」

「お、早かったな」


ユリアスは、紅茶を飲んでいた手を止めて、こちらを向いた。


「えぇ。それなりに急いだからね」

これは本当。いくら幼馴染といえど、お客を待たせる訳にもいかない。


「そうか。…………えっと、今回のことは、その…残念だったな」

「あら、慰めてくれるの?」


驚いた。いつもの様に「ドンマイ!」とか、軽い調子で言うかと思ったのに。


「俺だって、傷ついているであろう幼馴染を慰めるくらいするぞ⁉︎…というか、ほんとうに大丈夫か?空元気とかじゃ…」

「本当に大丈夫よ。情は、とっくに尽きたし、浮気も最初から知っていたし」


私は、紅茶を口に含む。でも正直、ショックだった。愛し合っていなくても、互いに信頼していたはず。なのに、ずっと一緒にいた私より、最近現れたマーガレットの方を選ぶなんて。私達が長年積み重ねてきた物は、その程度の物だったのか、私の努力はなんだったのかと今だに考える。


ポロッ 


そこまで考えると一粒の涙が出てきた。


「あっ、違うの、これはっ…」


私は顔を隠して、必死に言い訳をしようとする。でも、涙がどんどん溢れてきて言葉が紡げない。


ポンポン


何があったのか分からなかった。10秒くらい経って、ようやく状況を理解する。

私は、ユリアスに頭を撫でられていた。


「へっ?あ、ユリアス⁉︎」

「泣きたいなら泣け。ずっと我慢していたんだろ」


その言葉を合図に、私はずっと隠していた本音を吐き出した。


「うっ。本当はねっ…ショック…だったのっ。悔し…かったの。幼い頃からの、婚約者を簡単に、取られて、裏切られて……!エドワードは、私の話を信じてくれなくなるし。恋なんて、婚約なんて、もう散々よ…!」


傷つきたくない。

それから私は、泣き疲れて眠ってしまうまで、泣き続けた。

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