それでも生きていたいのです

オッチョ

それでも生きていたいのです

私は腹話術をやっております

でも最近は不景気でしてね

みんなロックバンドやらなんやらに夢中でなかなかステージに立てれないんですよ

立てても客席には数人しかお客様はいないし

それでも精一杯やるんです

でも才能がないんでしょうかね?

お客さん全然楽しんでくれないんですよ


結局ステージに立つ権力も取られてしまいましてね

仕方なく路上で芸を披露していたんですよ

なんか諦めきれないと言うかなんというか

意地でもしがみつきたかったんでしょうかね?

そのときです

茶色い酔っぱらいの老人が私の芸を気に入ったらしく「スエーデンの田舎町でショーをやらないか?まぁちっちゃい居酒屋だけどね」といって

名刺みたいなものにメッセージと電話番号を書いてて私に渡して来ましてね


いやー嬉しかったですよ

自分を必要としてくれるの人がいたことが

でもね、友達のマジシャンがね

私と同じく

ステージに立てなくなっちゃったみたいで…

私そんな彼が見ていられなくなってしまいまして

その老人に電話してマジシャンのことを伝え私の変わりにどうか?と交渉してみたんです

どのみちスウェーデンまでいくお金なんてないから断ろうかな?と思ってましたから

友達にその権利を譲ったんですよ


なんだかいいことしたって思いました

でも数日してもステージに立てない現状を考えるとだんだんと冷静になってきて

お金を貯めて私が行くべきだっただろうか?

友達に譲ったのは間違いだったのではないだろうか?

なんて考えだしちゃって

なんかみっともないですよねぇ


その友達は一ヶ月後に帰って来たんです

なんだか可愛い彼女をつれてきました

ちょっと嫉妬しちゃいますよね


私は収入が現状全くないんですけどでも見栄は張りたいじゃないですか

だから二人にディナーに誘われたとき借金してまで行ったんですよ

バカですよね

なんでそこまで"友達からみた自分"を気にするのかイマイチ自分でも分かりません


カビ臭い自分の家に帰って

ロープを天上にくくり

首に通しました

借金して仕事もないんです

こうした方が楽ですもんね


でもそのとき腹話術人形が目に入ったんです

洗ってあげてるんですが正直ちょっとボロボロであんまりいい代物ではない

それでもお金のない母が身体の弱い私に無理して買ってくてた大切なものなんですよ

それを見た時、私なぜか泣いちゃいましてね

いや母親がどうとかそういうエピソードを思い出してないたという訳じゃないんですよ


まだそれでも生きていたい

って感情が自分の中で生まれたんです

醜いですよね

その大切な大切な腹話術人形を売りに出しましたよ

たいした額になりませんでしたけど

これで生きてけると安心しました

なんて醜いんでしょう

大切な思い出を売っぱらってでも生きていたいって思ってしまったんですよ私は


でもね

やっぱり人形も失っちゃった訳ですから

もう腹話術師の仕事もできません

新しいものなんて買えません

だからアルバイトをすることにしました

でもね

やっぱり私は私なわけでして

結局続かないんですよ

クビにされましたよ


どうしましょう

見栄の借金も残ったまま仕事もない

私は家を出ていくことになりました

私には帰る実家もありませんから

残った私物を売りながら食べ物を買っていたのですが、それにも限界が来ましてね


私は路上で物ごいをすることになったんです

お風呂も入れない、洗ってない臭い服で

ずーーーっと

お金を恵んでくれる人を待ってるんです

惨めですね

とても惨めだ


そのとき友達とスウェーデンから一緒に来た彼女が

別の男と歩いていたんです

前とは比べ物にならないくらいオシャレでいい服をきてましてね

なんかそれを見てちょっとおかしくなっちゃって

最低ですよね


それでも生きていたいのです

なんででしょうね?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

それでも生きていたいのです オッチョ @ottyo79118

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画