僕の夢

伊島

─やきゅうせんしゅになりたいです─

「はあ……」


 今日も疲れた。

 毎日毎日、仕事、仕事、仕事……。

 なんで僕は、こうやって生きてるんだろう?

 そんな疑問がふつふつと湧き上がりつつも、答えも、この疑問に対しての対処法も見つからない。

 つまりは……『仕方がない』

 それしかない。


 僕は作業的に買ってきたコンビニの袋から缶ビールを取り出すと、フタを開ける。

 カシュッと気味の良い音がむなしく部屋に舞う。

 一口飲んで、缶を机に置く。

 あの頃は……コレも美味しかったんだけどなぁ……。

 今ではすっかり、『辛さ』『苦しさ』『むなしさ』を失せさせる道具になってしまった。

 その事実がまた、僕の心を酷く汚していく。

 僕はテレビを付ける。

 こんな遅い時間じゃ、辛気臭い雰囲気のニュース番組しかやっていないが、無音に取り残されるよりかは幾分かマシだろう。

 テレビから騒々しい音が流れ出す。


「あ……そっか……。今日、七夕か」


 七夕。

 七月七日。

 年に一度、織姫と彦星が再開する日。

 短冊に願いを書くと、叶うとかなんとか。


「なにが七夕だよ……」


 浮かれた気分にもなれない。

 むしろ、嫌な気持ちになってきた。

 僕はテレビを消そうとリモコンを手に取り、もう一度テレビの画面に目をやる。

 ちょうど、商店街の笹竹に飾り付けられた、その町の人たちの『願い事』が紹介されているコーナーだった。

 画面に映し出されているのは、拙いひらがなで『やきゅうせんしゅになりたいです』と書かれた短冊。


 僕の心臓がブチブチとはち切れるような、そんなむごい音が聞こえてきた……気がした。


 そういえば……そうだったな。


 僕も……そんな夢……持ってたっけな……。


 過去のボクから託されてたっけな……。


 どこに……やっちゃったんだっけな……。


「ごめんな」


 こんな苦しくても……涙は一滴たりとも流れてこなかった。



 僕は大人になってしまったのだ。

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僕の夢 伊島 @itoo_ijima

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