第6話
放課後
よいっしょ。
小学生の小さい机とはいえ、中にいろいろ詰まっているとかなり重いな。
お楽しみ会の片付けで机を元に戻しながら俺は考えを巡らせた。
すっかり楽しんでしまっている。
お楽しみ会だけでなく、学校生活全般を。
朝に聞いた「見つけてごらん」という言葉のヒントは全くつかめていないし、今夜このまま眠りに着いたらまた小学五年生の生活が待っているのだろう。
「見つけてごらん。そしたら帰してあげる」ということは、逆に考えると「何か見つけない限り帰れない」のだから。
小学五年生の生活は確かに楽しいが、このままでは絶対にいけない。
どんなにこの時代が眩しかったといえども俺の生活はここにはないし、この時代を過ごすために俺は何年も人生を積み重ねてきたわけではない。
そして、気が付いたことがある。
俺の意識がこの時代にあるのなら、29歳の俺は今どうしているのだろう。
今までは元の時代に戻ることができればいいと考えていたが、この瞬間にも29歳の俺の周りで時が進んでるとすれば、これは俺一人の問題ではないのだ。
幸いなことに今日は授業は五時間目までで、夜までに時間は少しある。
全力でヒントを探して今日中に元の世界に帰ろう。
帰りの会の「さようなら」の挨拶を済ませると、俺はそう意気込んでランドセルを背負い、急ぎ足で帰路に立った。
家に帰ってとりあえず家の周囲を闇雲に探してみたが、目の前に広がるのは日常そのものだった。
朝に風が吹いた方向や、アパートの近くにある秘密基地にも行ってみたが何も得られない。
17時の鐘が鳴って辺りが暗くなった。
おまけにポツポツと雨まで降ってきて気がめいってくる。
それでも家から傘をとってきて辛抱強くうろうろしていると、一人の女性に声をかけられた。
「あら、理人君。今日は明香里と大介君と一緒じゃないの?」
顔を見ただけでは分からなかったが、声と口ぶりから明香里ちゃんのお母さんだと分かった。
そうか、いつもはこのくらいの時間まで明香里ちゃんや大介をはじめとする家が近いメンバーで遊んでいたのだ。
首を横に振ると、明香里ちゃんのお母さんは心配そうに切り出した。
「あのね、明香里見てないかしら……。どこかで遊んでいるだけだと思うんだけど、あの子今日はランドセルうちに置いてないのよね」
確かに珍しい。
ランドセルなんて邪魔になるだけだから、いつもみんな家に帰ってから再集合していた気がする。
「いえ、見ていないです。ちょっと探してみます」
「あ、いいのよ、大丈夫。ありがとう。おうちにはお兄ちゃんもいるから、おばさんが探してみるわ」
明香里ちゃんのお母さんはそう言って去っていった。
俺の記憶では小学五年生の時に明香里ちゃんが危ない目に遭うことはなかったはずだ。
しかし、「だから大丈夫」と割り切っていいのか?
今この世界にいる俺は29歳の俺なのだから当然、記憶の中の11歳の俺とは違う行動をしている。
もし、万が一があって明香里ちゃんに危険が降りかかっているとすればその原因は俺にある。
具体的には、「俺が今日明香里ちゃんや大介と一緒に帰らなかった」ことにある。
俺は学校の方向に走った。
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