第5話
4時間目 国語
大介が林先生を呼んできてくれたおかげで、4時間目の開始時刻には騒ぎも収まりクラスメイトはほとんど全員着席できていた。
夏帆は保健係が付き添って念のため保健室に連れていかれた。
ケガの確認や気持ちを落ち着かせるためだろう。
トラブルの中心人物をいったん分断させる意味もあるのかもしれない。
勇雅は普通に参加する形で授業が始まった。
今日の授業は『大造じいさんとガン』。
正直懐かしすぎるが、クラスは先ほどのトラブルでいまだ上の空といった様子だ。
授業に集中するべきなのだろうが、友達の心配をせずに知らんぷりしろというわけでもないのだろう。
勇雅を空き教室に隔離しない点や、この少し浮ついた教室の雰囲気を先生が注意しない点からそう思った。
林先生のクラスは一体感を大切にしているから特にそうなのかもしれない。
これが会社だったら、親友というわけでもない同僚のいざこざは無視して仕事をしていたところなのだが、この教室の中では俺も勇雅たちのことを考えてしまう。
勇雅と夏帆はお似合いのカップルという認識がクラスにはあったが、実際のところは二人の間には温度差があったのだろう。
苦手な算数の勉強にかこつけてでも勇雅と一緒にいたかった夏帆と、早く男友達のところに行きたかった勇雅。
すれ違ったままお互いが相手の気持ちよりも自分を優先してしまったから今のような状況になっている。
小学生らしい感情的な行動はあるが、根本は大人と変わらない。
小学生だから、子供だからといってその世界の全てが子供らしく幼い訳ではないのだろう。
確かに知識や経験は浅いのかもしれないが、子供だって大人と同じように真剣に考えて、悩んでいるのだ。
ぐるぐるとそんなことを考えていると教室後方から「ガラ」と音がして夏帆が姿を現した。
ワンピースから体操服に着替えていて、目元は少し赤いが涙はもう止まったようだ。
その様子にクラス全体も安心したのか、授業は少しずついつも通りのものになっていった。
給食・昼休み
林先生の働きかけも大きく、勇雅と夏帆のトラブルだいぶ改善された。
本来なら放課後に行ってもいいのだろうが、次の時間のお楽しみ会を二人にとってもみんなにとっても少しでも楽しいものにしたいのだろう。
給食の時間に勇雅と夏帆、それから勇雅の三人の友達を空き教室に順番に呼び出して個々の事情聴取をした後に、勇雅と夏帆を直接引き合わせる。
もともと勇雅に悪気があることではなく、夏帆も自分にも非があると感じていたようで二人の間の話し合いは特に荒れてはいなかった。
しかし、夏帆のお母さんの手作りのワンピースが大きく破けてしまったため夏帆の家に連絡を取る必要があったようだ。
それに、話し合いが落着しても勇雅との間にある温度差を夏帆が気づかざるを得なくなってしまった。
夏帆の今までの強気で大胆な行動は勇雅の気持ちが自分に傾いていると信じていたからできていたのだろう。
それは、この先なくなってしまうのだろうか。
給食のかきたま汁やホウレン草ともやしのナムルを食い、新聞委員会の会議を聞きながら俺はそんなことを考えていた。
5時間目 学活
林先生の働きかけやみんなの気遣いの甲斐あってお楽しみ会が始まる頃にはクラスの雰囲気はだいぶ温まっていた。
うちのクラスでは大体一カ月に一度のペースでお楽しみ会が開かれる。
クラスでやりたいことがある人は誰でもお楽しみ会を一から企画できるシステムなのだ。
今日の主催者は女子7人のグループで、中には明香里ちゃんもいる。
記憶ではあまりクラスで目立っていた印象はなかったから少し意外だ。
企画の内容はクイズ大会。
4チーム対抗で、問題ごとにチーム内でメンバーを一人選出してパネルクイズに挑む。
『アタック25お楽しみ会エディション』といった感じだ。
小学生のお楽しみ会を29歳が素直に楽しめるのか不安だったが、やってみるとかなり楽しい。
勉強、音楽、遊び、クラスのことなどクイズのジャンルも幅広く、主催者が女子陣なのに男子も楽しめるような工夫もあるし、パネルも手作りのものが用意されていて、かなり作りこんである。
「皆が楽しんでくれるようにさぞ時間も労力もたくさんかけたのだろう」と、親目線で見てしまうのか小学生が頑張っている様子を見るだけで涙腺が刺激される。
ちなみにうちのチームは準優勝して、折り紙で作られた銀色のメダルをかけてもらった。
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