第4話

中休み


すっかり忘れていたが、そういえば小学校は20分間の中休みが存在した。

20分間で大したことはできないだろうと思いきや、2時間目が終わると直ぐに勇雅を先頭に大半の男子が校庭に突っ走ってドッジボールをするのだから驚きだ。

小学生は20分でも随分有意義に使うようだ。

俺もレギュラーメンバーだったようで、しっかり参加されられたが中々白熱した試合だった。

それも、そこまで運動が得意でないタイプの子もメンバーにいるのが面白い。

今日だって、体の小さな2人組が「今日はやろうかな」とフラっと参加して、全員特に何も気にすることなくボールを当てあっていた。

どこのクラスもこうとはいかないだろうが、5年生のときのクラスの男子が仲がいい記憶があったのは全員がこんな風に緩やかに繋がっているからなのだろう。

これは中学、高校と上がっていくと中々難しいことなのだ。



三時間目 算数


俺は生粋の理系だから、流石に小学5年生の算数で躓きはしない。

しかし流石は林先生というべきか、算数が得意な子も退屈させない工夫が凝らされている。

まず先生が黒板を使った一斉授業をせずに、教室中を歩いて見回っているのだ。

そして子どもたちは教科書を読んでもどうも分からないところに赤えんぴつで線を引き、先生や算数が得意な子どもがその部分を教えていく…という本当に斬新な授業スタイル。

算数が苦手な子どもが「どこが分からないのか」を自分で認識することができることや、得意な子どもが教えることを通じて理解を深めることが出来るというメリットはあれど、一斉授業と比べると授業進度も人間関係も不安定になりやすい方法だ。

林先生のクラスづくりの技術があって成せる技だろう。

今日の範囲は通分をする必要がある分数の足し算だ。

当時の俺も算数は得意だったと思うので、教科書の問題を解いたら早々に教える側に回ったが、理解に苦戦している友達もかなり多かった。

進学していくにつれ、すぐに通分はできて当たり前のスキルになる。

もしここで理解しきれずに授業が先に進んでしまったら、そして周りに助けてくれる人が現れなかったらと考えると、小学校の授業一回はかなり重みのあるものなのかもしれない。



3時間目と4時間目の間の5分休み


事件は起きた。

3時間目終了から3分ほど経ったとき、教室中に勇雅と夏帆の言い争いの声と椅子の倒れるガシャンという音が響き渡った。

現場には勇雅と勇雅ととくに仲がいい三人のグループと、床にぺたりと座り込んだ夏帆がいた。

勇雅は右手に鉛筆を持ったままうつむいて立っていて、夏帆は倒れた椅子の近くでかすかな声で泣いている。

すぐに夏帆に仲の良い女子たちが「大丈夫?」「どうしたの」「ケガしてない?」と駆け寄った。

勇雅が鉛筆を持っていたから心配だったが、どうやら夏帆にケガはないらしい。

しかし、服の前面にかなり大きく破れた跡がある。

俺は大介に職員室から林先生を呼んでくるように頼み、比較的落ち着いている勇雅と三人の男子から事情を聴いた。

彼らから聴いた話はこうだった。


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三時間目の算数の時間、算数が得意な勇雅は夏帆に教えていたのだが途中でチャイムが鳴ってしまった。

男子の間では手作りのカードゲームが流行っていて、勇雅も三人の男子と5分休みに遊ぶ約束をしていたのだが、夏帆を途中でほっぽり出すわけにもいかなかった。

5分しかない休憩時間がどんどん減っていくのに、夏帆は勇雅と一緒にいるのが楽しいらしく、雑談ばかりで算数はなかなか進まない。

そこに苛立っていた勇雅にとどめを刺したのは先にカードゲームをしていた三人の男子からの言葉だった。


「勇雅は今彼女と楽しく勉強中だから」


俺は本当はお前らと遊びたいのに。

それをわかってくれない友達にも、いつまでもへらへらしている夏帆にも、言いたいことをはっきりと言えない自分にも我慢の限界がきて勇雅は夏帆を振り払ってしまった。

鉛筆を握ったままの右手で。

ケガはなかったのは幸いだが、鉛筆の先が夏帆の服に当たって服が破けてしまった。

それは夏帆のお母さんが縫ってくれたという、勇雅もよく知っている夏帆のお気に入りのワンピースだった。


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