第60話

固く握られた手のひらは微かに震えているような気がした。

フランソワーズはステファンにあることを告げるために大きく息を吸ってから吐き出した。

そして口を開く。



「ステファン殿下……わたくし、シュバリタイア王国に行かなければいけません」


「……っ!」



ステファンのフランソワーズを抱きしめる力が強まった。

シュバリタイア王国に行かせたくない……何も言わなくてもそう言われているような気がした。

フランソワーズはステファンの気持ちが嬉しくて仕方なかった。

それほどまでに心配してくれていると思ったからだ。


(でも、わたくしが行かないと……)


フランソワーズは、先ほどステファンが右の薬指にはめてくれた指輪を外した。

指輪を外したことに驚いたステファンの青い瞳が大きく揺れ動く。



「フランソワーズ……?」



体を離した彼の前でフランソワーズは左手の薬指に指輪をはめ直す。

そしてステファンを安心させるように笑みを浮かべてから顔を上げた。



「わたくしはステファン殿下と同じ気持ちですわ」


「……!」


「この件が終わりましたら、ステファン殿下のそばにずっといさせてください」



フランソワーズの申し出にステファンは目を大きく見開いている。

今、ステファンを不安にさせない方法はこれしか思い浮かばない。

それに彼となら幸せの未来を築いていける。

そう思うには十分な一カ月間だった。



「このまま放っておくと間違いなく、フェーブル王国にまで影響を及ぼしてしまします。ステファン殿下、シュバリタイア王国に行かせてください!」


「……!」


「わたくしはフェーブル王国を守りたいのです」



ステファンはフランソワーズの気持ちを理解してくれたのだろう。

シュバリタイア王国を救いに戻るわけではない。

フランソワーズはフェーブル王国を守るためにシュバリタイア王国に行くのだ。

フランソワーズが彼に訴えかけるように見つめていると、ステファンは俯いた後に小さく頷いた。

そしてフランソワーズの左手を握りながら返事を返す。



「僕もフランソワーズと共に行くよ」


「え……?」


「僕は君を守ると決めたんだ」



ステファンは力強い声でそう言った。

手を取ると、そっと左手の薬指に口付ける。

フランソワーズもステファンがいてくれたら心強いと思った。



「それに……シュバリタイア王国に大切な君を返してもらえなかったら困るだろう?」


「……!」


「その時は無理やりにでもフランソワーズを連れ帰るよ……何があってもね」



ステファンはいつものように笑みを浮かべてはいるが、どこか恐怖を感じるのは気のせいだろうか。

彼の圧に押されながらもフランソワーズは何度も頷く。



「わたくしもフェーブル王国に帰りたいと思ってますから」


「……!」


「ステファン殿下の隣が、わたくしの居場所です」



フランソワーズはステファンと共に、フェーブル国王にシュバリタイア王国に行くことを報告しに向かった。

初めは驚いていたフェーブル国王だったが、フランソワーズの『悪魔の宝玉』について説明すると真剣な表情に変わる。

そしてそれが解き放たれてしまえば、他の国にも影響を及ぼすことになることを伝えた。


物語ではマドレーヌが壊してしまった悪魔の宝玉。

この宝玉が黒く染まれば恐ろしいことが起こる。

シュバリタイア王国だけでなく、周辺の国々まで被害が及ぶことは間違いないのだ。

フェーブル王国はとても素晴らしい国だ。

だからこそフランソワーズは、自分の意思でこの場所を守りたいと強く思う。


(わたくしの力がどこまで通じるかわからない……でも、やるしかないなのよ)


早馬でフランソワーズとステファンがシュバリタイア王国に向かうことが伝えられた。

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