第59話

フランソワーズが戸惑っていると、セドリックが暴れながらも声を発する。



「シュバリタイア王国のことは聞いているんだろう? お前は母国を助けようとは思わないのか!?」


「え……?」



護衛騎士たちに必死に抵抗しながらも、言い放ったセドリックの言葉にフランソワーズは驚いていた。

母国を助ける、その言葉の意味がわからなかったからだ。



「お前が聖女としての役割を放棄したせいで宝玉が黒く染まり、もうすぐ悪魔が解放されるっ!」


「な、に……?」


「フェーブル王国だって、タダではすまないんだからな!」


「……っ!?」


「フランソワーズ、聞くな。今すぐにシュバリタイア王国に送り返せ……!」



ステファンが後ろからフランソワーズの耳をそっと塞いだ。

彼の弱々しい声が聞こえたフランソワーズは驚きつつも振り返る。

ステファンの悔しそうな表情に、フランソワーズは目を見開いた。

フランソワーズの耳は塞がっているが、多少の音は入ってくる。

セドリックは今、シュバリタイア王国が危機的状況にあり、今にも宝玉が黒く染まることを必死に伝えているようだった。

やがてセドリックの声がまったく聞こえなくなる。

セドリックは現れた護衛たちによって引き摺られていくのが遠目に見えた。

すると、ゆっくりとステファンの手のひらが離れた。

フランソワーズは震える声で問いかける。



「ステファン殿下……いつからですか?」


「……」


「詳しく説明してください」



眉を寄せながら暫く黙っていたステファンは、固く閉ざされた唇を開いた。



「……二週間前からだよ。シュバリタイア王国から〝フランソワーズを返せ〟と手紙が送られてくるようになったんだ」


「どういうことですか!?」



ステファンはシュバリタイア王国が危機的状況にあることや、フランソワーズを返せと抗議の手紙がフェーブル王家宛てに届いていることを話してくれた。



「君の気を揉ませるようなことはしたくなかった。あの国はフランソワーズを傷つけることしかしない……っ!」


「……ステファン殿下」


「フランソワーズには苦しんだ分、笑顔でいてほしいんだ」



ステファンのフランソワーズを想う気持ちが痛いほど伝わってきた。

しかしフランソワーズはシュバリタリア王国の宝玉のことが頭から離れない。

宝玉が黒く染まってしまえば、何が起こってしまうのか物語を読んで知っていた。


(このままだと被害を受けるのは、シュバリタイア王国だけじゃないわ。隣国のフェーブル王国にも影響があるはず……!)


それを抑えられるのがマドレーヌのはずだった。

聖女として宝玉を抑えることに自信があったように見えたマドレーヌだったが、聖女としてはうまくいかなかったのだろうか。

何があったのか詳しくはわからないが、聖女としてマドレーヌの力が足りなかったことだけは確かだ。

それにフランソワーズを冤罪で追放したこともバレてしまい、責任を取るような形でセドリックがここにいるのなら辻褄があう。


マドレーヌがいたのに、こんな短期間に宝玉が黒く汚れているということは……。

まさか、物語のフランソワーズのように宝玉を穢しているのではないかという考えに行き着いた。

そう考えるとシュバリタイア王国がいきなり窮地に陥ったことも納得できる。

フランソワーズはギュッと手のひらを握った。


(フェーブル王国を守るためにも、どうにかしないと……!)


フランソワーズの表情を見てステファンは何かを悟ったのだろう。

声を上げる前にステファンはフランソワーズの体を引き止めるように抱きしめた。



「ステファン殿下……!」


「フランソワーズ、どうするつもりだ?」



ステファンの背に触れてわ離すように訴えかけても手を離してはくれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る