第57話 マドレーヌside4


今まで宝玉はフランソワーズに頼りきりだったが、彼女がいなくなったことで負担は重くのしかかっていた。

解放されたい……そんな思いが透けて見える。

しかし、マドレーヌはフランソワーズが何故フェーブル王国にいるのか気になって仕方なかった。

それは他の令嬢たちも同じようだ。



「でも、どうしてフェーブル王国にフランソワーズ様がいるのかしら?」


「フランソワーズ様は帰ってきてくださるのですかっ!?」


「……それはっ」



王妃はそう問われて顔を伏せた。

令嬢たちは、マドレーヌのせいだと言わんばかりに再びこちらを睨みつける。

自分から国を出て行って、どこかで野垂れ死んだと思っていたフランソワーズが生きている。

そして次巻の舞台であるフェーブル王国にいるという事実に驚くばかりだ。


(フェーブル王国……なんで?)


王太子のステファンと王女のオリーヴは悪魔の呪いに長年、苦しんでいた。

その呪いが体を蝕み続けて、オリーヴが亡くなってしまったことでステファンが悪魔に乗っ取られてしまう。

そこからステファンの暴走が始まり、国は大混乱。

その影響はシュバリタイア王国にまで及んでしまう。

シュバリタイア国王は昔、フェーブル国王から悪魔のことを相談を受けた際に断ったことがあり責任を感じていた。

その憂いを晴らすため、そしてシュバリタイア王国を守るためにセドリックと共にフェーブル王国に向かうのだ。



「フェーブル王国ではフランソワーズは英雄らしいの。嘘をついて最悪の事態を招いた犯罪者のあなたとは大違いね、マドレーヌ」


「……ッ!」


「フランソワーズは聖女として王家を救ったらしいのよ。今はフェーブル国王の王家にとても大切にされて城で暮らしているわ」



マドレーヌは王妃の話を聞いて震えていた。

ただフランソワーズが幸せに暮らしていることが許せない。


(そんな……大切にされて、城で暮らしてるって何?)


どうやら城の門番が、フランソワーズを抱えて馬車に乗るステファンを目撃したそうだ。

フランソワーズとステファンに、どんな関係があったのかはわからない。

門番はフランソワーズは抵抗しており、自分からフェーブル王国に行こうとしているようには見えなかったという。


(やっぱりフランソワーズは物語は知らないはずでしょう?それなのにフェーブル王国の王太子、ステファン殿下とオリーヴ王女を救ったんだわ……!)


物語が大きく変わっている。フランソワーズは隣国で地位を築いたようだ。

それにフランソワーズはステファンに憑いていた悪魔を聖女の力で祓ったのだろう。

なのに、マドレーヌは今まで見下していた令嬢たちに馬鹿にされている現状。


(フェーブル王国にいた悪魔は宝玉の中にいる悪魔よりは弱かったはず……!わたしが浄化できていたらこんな思いをしなかったのにっ)


ステファンは悪魔に乗っ取られることなく、オリーヴも生きているということなのだ。


(あの女……勝手なことばかりして!なんでっ、なんでわたしよりも幸せを掴んでいるのよ!)


マドレーヌはこんな国をさっさと捨てて、フェーブル王国に行きたいと強く思うようになった。

そしてマドレーヌのカサついた唇が弧を描く。


マドレーヌはその瞬間、聖女の力を使って宝玉に祈ることをやめた。

正確には祈っているフリをして、これからのことを考えていた。

もうここまで侵食してしまえば、悪魔の宝玉を止めることは今のマドレーヌにはできないだろう。


(逆に宝玉を真っ黒にして、この国から出ていくチャンスを作ればいいのよ。確か物語のフランソワーズは怒りや憎しみをぶつけて宝玉を黒く染めていたのよね……フフッ、わたしもそうしてやるわ)


この国に見切りをつけてフェーブル王国に行く……それしか幸せになる道はないと思った。

マドレーヌはどうせここから出られない。

夜中、令嬢が王妃が休んでいる時に、ひたすら怒りや憎しみをぶつけていく。


(わたしがこの物語のヒロインなの……!今度こそフェーブル王国で幸せになってやるわ)

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