第21話
フランソワーズが笑みを浮かべていると背後から声がかかる。
「フランソワーズ、長旅で疲れているのにすまない」
「いえ。ステファン殿下と同じで、お二人もオリーヴ王女殿下が心配なのですわよね? わたくしができることならばお手伝いいたしますわ」
「……!」
「お気遣いありがとうございます。ステファン殿下」
「フランソワーズ……」
ステファンのフランソワーズを見る熱い視線に気がつかないまま足を進めていく。
いつものステファンを知っている人たちが見れば、彼がフランソワーズに抱く特別な感情をすぐ察することができた。
フランソワーズは、深紅の質のいい絨毯と豪華なシャンデリアがある玄関をぬける。
長い長い廊下を進み、階段を上がっていくと可愛らしい白い扉があった。
オリーヴの部屋の前には、複数人の白衣を着た男性が立っている。
彼女を診ていた医師たちなのだとすぐに理解できた。
その表情は暗く、切羽詰まったものだとわかる。
フェーブル国王たちに続いて、ステファンとフランソワーズもオリーヴの部屋へと足を踏み入れる。
広い部屋には天蓋付きのベッドがあった。
温かみのあるクリーム色の壁紙。
可愛らしい小物や花瓶に生けてある花は部屋を彩っている。
オリーヴの人柄が表れているような気がした。
フランソワーズと同じ十八歳だと聞いていたオリーヴの体は随分と小さく見えた。
オリーヴは十歳の時から八年間もこの病……悪魔の呪いに侵されているらしい。
「ステファンお兄様……! おかえりなさっ、ゴホッ、ゴホ」
「オリーヴ、無理をして話さなくていい」
体を折り曲げて咳き込むオリーヴは苦しそうだ。
ここ数日はいつもよりも体調がよくなり、体を起こせるので元気なの方なのだという。
フランソワーズは悪魔の取り憑いている本を光に当てているおかげではないかと思った。
しかしオリーヴの体は痩せ細り、精神的にも辛い状態が続いているそうだ。
手遅れになる前にここに来れたのは幸運だったかもしれない。
(これが悪魔の呪い……初めて見たわ)
フランソワーズはずっと悪魔の宝玉にしか、聖女の力を使ってこなかった。
宝玉のある部屋で一日中、祈り続けているフランソワーズとは違い、小さな悪魔でも祓っていたマドレーヌの方が活躍しているように見えただろう。
小説の中でもマドレーヌはそうやって力をつけていたことを思い出す。
悪魔が取り憑いている物を灰にして祓うらしいが、フランソワーズには初めてのことだった。
(やり方は知っているけど、本当にわたくしにもできるかしら)
咳き込んでいたオリーヴは、フランソワーズに気がついたのか目を輝かせてこちらを見ている。
「そちらの方はどなた?」
オリーヴに声を掛けられて考え込んでいたフランソワーズはハッとする。
「ごきげんよう、オリーヴ王女。フランソワーズです」
「まぁ、綺麗な方……! 是非わたくしの話し相手にっ、ゴホッ、ゴホ」
近くにいた侍女が咳き込むオリーヴの背を摩る。
馬車の中でステファンに話を聞いたが、オリーヴは十五歳頃から、ずっと部屋で過ごしており、体力的に外に出られないのだそうだ。
本来ならば令嬢たちとお茶会を楽しむ時期なのだろう。
婚約者と共にパーティーに参加したり、政務に出られないことに胸を痛めていると聞いた。
「フランソワーズはオリーヴの呪いを解く方法を知っているんだ」
「嘘……! それは本当なのですか!?」
「彼女はシュバリタリア王国の聖女なんだ」
オリーヴは口元を押さえながら驚いている。
「遠くからありがとう、体調は大丈夫?」
彼女は自分の体調も大変なのに、フランソワーズを気遣ってくれた。
オリーヴもステファン同様、とても優しく思いやりがある人だと思った。
フランソワーズは「大丈夫です」と答えた後に、オリーヴを安心させるように笑みを浮かべながら頷いた。
(早く元凶を断たないと……こんな苦しそうな姿を見たまま放っておけないわ)
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