2-0 絶望と、


 フクロウの声が聞こえる。


 自分の息づかいが酷く耳について、一呼吸するだけで見付かってしまうのではないかと恐怖が押し寄せてくる。


 少女は暗闇の中、喘鳴を必死に堪えながら走っていた。全身が心臓になったように脈打ち、肺が引き裂かれたかのように痛む。足は震えて持ち上げるのも億劫だが、それで走るのをやめれば死神の鎌が少女の首を刎ねに来るとよくわかっていた。


 しかし細い幹の木々が密集した山の中を必死に駆ける少女は、自分がどこへ向かって走っているのかわからなくなっていた。

 下っているのか登っているのか。北へ向かっているのか南に向かっているのか。

 ただ逃げなければと気持ちに急かされて、足を止めて悩む暇もなく走り続けていた。


「あっ」


 そんな少女が懸命に動かしていた足は、木の根に躓き転んだことで止まった。

 どうやら下っていたようで、転んだ身体が緩やかな下り坂を転がった。泥まみれになりながら、木の幹に引っかかるようにして細い身体が動きを止める。

 すぐ立ち上がらなければと思うのに、一度走るのをやめれば限界を迎えた身体が鉛のように重い。酸素を求めた肺が、小刻みに震える手足が、起き上がる気力を奪っていく。


 こわい。


 ぼろりと、大粒の涙が少女の大きな金色の目からこぼれ落ちた。

 今まで堪えていたものが決壊して、ぼろぼろ流れ落ちる涙に視界がぼやける。


「しに、たく、ない」


 喘鳴に、嗚咽が混じった。呼吸をするたび肺が苦しい。泣いてしまえばより苦しくて、少女は山の中で溺れたように喘いだ。


「いき、た…っ」


 救いを求め彷徨った手が、地面を掻き毟る。爪が割れて血が滲んだが、全身が痛んで指先の痛みなど感じなかった。

 だけど。


「いいよ」


 少女のもがく手を取った彼の手は、感覚のない少女の手を、温かく包んだ。


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