第19話 熾烈な戦いを


 Aブロックではオニキスとボニーの戦いが熾烈を極め、他の選手たちは様子を他の参加者を減らす方向に移行したらしく、相変わらず大乱戦。

 Bブロックは青い髪をした騎士が目立っていて、オニキスほどではないが孤軍奮闘で相手をなぎ倒していた。恐らく順調にいけばあの騎士が勝ち上がるだろう。

 Cブロックは強者という強者は目に付かない。実力差がほぼないのか、ある意味一番大乱闘~筋肉を信じてぶつかり合え~が起きている。実力差が均衡しているからこそ一番の見所と言ってもいい。

 Dブロック。Dブロックだけ別世界。何ならあそこだけ画風が優美。


(…あれ?)


 ふとオペラグラスに信じられない人物が写り込んだ気がしたが、動き回る人が多すぎてすぐ紛れてしまった。


(さすがに気の所為…よね?)


 疑念を抱いて探してみたが、やはり見当たらない。ということは気の所為だったのだろう。

 リリスはちょっと腑に落ちない思いを抱きながらも、Aブロックへと視線を戻した。


 オニキスの長身と太い腕から繰り出される大剣と、ボニーの膂力だからこそ操れる大剣がぶつかり合い、音が衝撃波となって周囲に響く。

 獲物に食い付こうと迫る狼を、水の流れを無視して荒々しく泳ぐ魚のように身をくねらせて避けるボニーは攻められても守りに入ることなく猛攻を続けている。それはオニキスも同じで、まるで守りに入った瞬間勝負がつくと言わんばかりに二人のぶつかり合いは激しかった。


『Aブロック苛烈だわ! 熾烈だわ! 過激だわー! 黒薔薇と赤薔薇のガチンコ勝負はまさかの力業! 二人とも一歩も引かぬぶつかり合いが続いています!』

『オニキスの大剣は速くて重い。勿論、無闇に振り回すだけでなく計算されたものだ。受け止めるのは同等の技術力を持つ者で内と跳ね飛ばされる。相手のボニーはそれだけの技術を持ち、さらにボニーの膂力は大男に匹敵する。それでいてしなやかな女性の筋肉があの大剣を鞭のように振るうことができる。二人ともパワータイプだからこそ、あの戦い方になっているんだろうね。守りに入った途端攻撃の隙を与えず崩されてしまうとわかっているんだ』

『あらぁ守りきって反撃に出ればいいのではなくて?』

『相手もそれを警戒しますから、守りに入った途端今以上の猛攻を受けることになるでしょう。相手に攻撃へ転じさせない程苛烈な猛攻に』


 赤薔薇の騎士団長ボニーが大剣を軽々操る姿には驚いたが、あの細い身体でオニキスと同じくらいの膂力があるらしい。すごい。

 え、片方が守りに入ったらこれ以上の猛攻が始まるの? ってことはまだこれ本気じゃないの?

 オペラグラスにも映らない、目にも留まらぬ剣戟の嵐にリリスの目は付いていけない。


 そのとき、一際大きな音が響いた。


「っ!」

「チッ!」


 同時に飛び退いたオニキスとボニーは、己の得物を掲げた。

 どちらの剣も大きくて頑丈そうだが、ボニーの掲げる得物が丁度真ん中から折れていた。


『おっとこれは…ボニー選手の剣が真っ二つに折れている~!』

『剣の方が耐えられなくなったようだ。二人とも馬鹿力だから』

(そんなことある?)


 あるらしい。


『今大会、残念ながら素手での参加は認めておりません! というわけで武器を失ったボニー選手、脱落!』

「く…仕方あるまい…」

「残念だ…」

「個人的にお前と白薔薇をぶん殴りたかったが…別の機会にするとしよう」


 ボニーは一度悔しそうに呻いたが、すぐ気を取り直して折れた剣を下げた。会場から嘆きの声が上がり、それだけ期待が寄せられていたのだとわかる。

 ボニーに勝利したオニキスだが、予選はまだ続いていてAブロックにはまだ参加者が残っている。油断せず、次の相手を見定めていた。

 そしてオニキスはボニーから恨みを買っていたらしい。ブライアンも買っているらしい。なんとなく理由が察せられてリリスは震えた。この二人が共通で恨みを買うならば、この大会の発端が思い浮かぶのだ。


『武器破壊のため脱落は悲しいわね~。あ、一応支給した武器で戦って貰っているわよ。身の丈にあった武器を選んで貰ったわ。だから強度は黒薔薇の君も赤薔薇の君も一緒だったはずよ』

『黒薔薇の方が高さのある攻撃を繰り出していたから、その分ダメージが加算されたのだと思いますよ。赤薔薇の場合は武器破壊されてからが本番の戦い方をしている所為もありますね』

『あらそれどういうこと?』

『未だ成長を続ける膂力から、赤薔薇の君が破壊した武器は数知れず…己の武器を壊しては相手の武器を奪い取り、また壊して奪い取り…と無法者アウトローのような戦い方をするのが赤薔薇の君こと【赤き破壊者レディデストロイヤー】ですから』

「その呼び名はやめていただいてよろしいか!?」


 脱落のためステージから降りようとしていたボニーが、解説席に向かって牙を剥く。凜々しい姿しか見たことがなかったが、顔が真っ赤になっていた。


『怒られちゃいました』

『怒られちゃったわねぇ~』


 ボニーはぐぬぐぬしているが、さすがに王妃もいるので続けて怒声はあげられない。ぐぬぐぬしながら退場していった。


 可哀想…。


 多分自分がすべての発端、と思っているリリスは心の中で何度もごめんなさいをした。

 ごめんなさい。

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