第11話

私が橘さんと付き合って5日が過ぎ、週末は初めてのデートを予定していた。浮かれてるつもりは無いけど、会社では何故か佐藤さんに「良い事でもあった?」と聞かれてしまう始末。

ちなみに彼氏が出来た事は隠している。


そんな佐藤さんだが。会社が終わり、月光堂でのバイトをしてると彼女が現れた。前から行きたいって言ってたから、いつ来るのかとは思っていたが。ついに来た。

「いらっしゃいませ」

隣の席で、いつも明るく笑顔を振りまいている彼女が、何を悩むのか。


「どんなご相談ですか?」

佐藤さんは少し緊張した様子で席に着いた。

「あの...夫のことで相談があって」

ああ...なるほど。実は、こうなるのは彼女が結婚する前から私は知っていた。

「夫が...DVをするんです。最近特にひどくて...」

佐藤さんの声が震えている。彼女の運命の糸を見つめながら、私は静かに頷いた。


「ムリだって分かってるんですが、もしかしたら彼も変わってくれるかもしれないって...思って、ずっと耐えてきたんです」

佐藤さんの目に涙が溢れる。私は彼女に向かってそっとティッシュを差し出す。

「あなたは十分頑張ってこられました。でも...」

言葉を選びながら、私は慎重に続ける。

「残念ながら、彼が変わる可能性は極めて低いでしょう。あなたが深く傷つく可能性の方が高いと思います」

だって、そういう運命だから。佐藤さんは大きくため息をついた。


「やっぱり...そうですよね」

彼女の表情に、諦めと同時に何か決意のようなものが浮かんだ。

「ありがとうございます。実は...もう一つ相談があるんです」

「はい、どうぞ」

「実はDVの事を相談してるうちに...社内の男の人と関係をもってしまって...」

その言葉に、私は思わず息を呑む。


「それに関しては、職場の仲の良い人に相談すると良いと思います」

さりげなく誘導。だって相手が誰なのか聞きたいし。

「そうですか。話せるような人はいるんです。隣の席の子で、私より4つ下なんですけど」

うんうん。そうしなさい。

「それがいいと思います」

「でも、言いづらくて。だって彼女、彼氏が出来たっぽいのに。こんな男女の問題を...」

私は思わず絶句する。なんで知ってるの!?誰にも言ってないのに!

「そ、そうですか。でも大丈夫ですよ。彼女は色々と世の中を知ってる方だと、占いで出てますから」

「そうなんですか。あんなにフワフワしてるのに...」

悪かったな。


占いを終え、佐藤さんは少し晴れやかな表情で店を後にした。私は彼女の背中を見送りながら、明日は会社でどう接するべきか考えていた。


翌日、会社に着くと、佐藤さんの姿が目に入った。昨日の月光堂での事が頭をよぎる。しかし普段通りに接しよう。

「おはよう、佐藤さん」

「あ、おはよう、紡木さん」

佐藤さんは少し緊張した様子で答えた。彼女の運命の糸を見ると、昨日よりもさらに複雑に別の糸が絡み合っていた。


午前中の仕事を終え、ちょうどお昼休憩に入ろうとした、その時。

「ねえ、紡木さん。ちょっと話があるんだけど...」

きた!佐藤さんの声に振り返ると、私は笑顔で答える。

「うん、いいよ。どうしたの?」

二人で会社の近くにある小さなカフェに入る。席に着くと、佐藤さんは深呼吸をして口を開いた。


「実は、私...離婚を考えてるの」

私は驚いたふりをする。「え?そうなんだ...確か結婚したばっかりじゃ?」

「うん。でもDVを受けててね。昨日、占い師さんにも相談したんだけど...やっぱり、このままじゃダメだって思って」

佐藤さんの目に決意の色が宿っている。私は静かに頷いた。

「そっか。大変だったんだね。気づかなくてごめん」

「ううん、私が隠してたから。でも、もう限界なの」

佐藤さんの声が震えている。私は思わず彼女の手を握りしめた。


「大丈夫。私がついてるから」

その言葉に、佐藤さんの瞼に涙が溜まる。

「ありがとう...でも、それだけじゃないの」

佐藤さんは少し躊躇した後、小さな声で続けた。

「実は...社内の人と親しくなっちゃって」

私は驚いた...フリをする。昨日の占いで誘導したから分かっていたけれど。

「誰...?」

「北野くん...」

北野くん?確か経理部の真面目な好青年だ。確かに最近、二人が一緒にいるところをよく見かけていた。


「最初は旦那の相談だったの。でも、だんだん心を開くようになって...」

佐藤さんの頬が赤くなる。これは完全に惚れてるな。

「旦那には話せないことも、北野くんには素直に話せるの。彼は私の気持ちを本当に理解してくれて...」

佐藤さんの運命の糸が、北野くんの方へ強く流れているのが見えた。

「でも、これって不倫だよね。私、最低だよね...」

佐藤さんの声が震える。私は深く考えてから、慎重に言葉を選んだ。


「佐藤さん、何も間違ってないよ。むしろ、勇気があると思う!」

「え...?」

「だって、自分の幸せのために行動しようとしてるんだもん。それって、すごく勇敢なことだと思うよ」

佐藤さんの目に、少し希望の光が宿った。

「ありがとう、紡木さん。でも、これからどうすればいいか分からなくて...」

私は佐藤さんの運命の糸を見つめながら、彼女の将来について考えを巡らせた。どうすれば彼女を幸せに導けるのか。そして、私にできることは何なのか。


「佐藤さん、まずは自分の身を守ることが大切だよ。DVは絶対に許されないことだから」

佐藤さんは小さく頷いた。

「うん...ありがとう、紡木さん。こんな話、誰にも出来なかったから。占い行って良かったよ」

少し罪悪感が起きる。それより、彼女は私が付き合ってる相手が誰かまで知ってるのだろうか?ふと思ったがそれには敢えて触れないでおこう。


ただ、それから佐藤さんの表情は和らいだ。私は彼女の運命の糸が、わずかながら明るく輝きはじめるのを感じた。

「私がついてるから、一緒に乗り越えていこう」

その言葉に、佐藤さんは涙ながらに笑顔を見せた。

カフェを出て会社に戻る途中、私は自分の取るべき行動について考えていた。

佐藤さんを幸せにするために、私は何をすべきなのかを......

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る