第20話 疑似屋台
その日の夜は戸祭一家と堂領家の御曹司たち、合計九人で食事することになった。亜佐飛たちは千綺たちが泊まっている部屋まで向かう。
「いらっしゃいませ」
亜佐飛たちはいつもと違う部屋の感じにびっくりとする。リビングルームはテーブルやソファがなくなっていて、そのかわりに屋台を模した台が堂領家の御曹司の数に合わせて設置されてあった。千綺たちはまるで屋台の従業員のように、台の後ろで立っている。
「うわあっ!」
亜佐飛は声に出してよろこぶ。そこはまるで夏祭りの会場だ。
「このあいだの花火大会では、りんごあめくらいしか食べられなかったからね。亜佐飛ちゃんたちに、お祭り気分をまた味わってもらおうと思って」
千綺が言った。彼は焼きとうもろこしの店を開いている。
「いらっしゃいませ。焼きそばやお好み焼きはいかがでしょうか?」
桂夏が呼びかけた。パックにぎっちりとつめた焼きそばやお好み焼きを人数分置いてあった。亜佐飛は焼きそばとお好み焼き、ひとつずつ手に取る。お金を払わずに手に入る屋台の食べ物というのは、夢があった。
鴻数の店はフランクフルトとフライドポテトが売られている。亜佐飛たちはそれも手にした。特に、フランクフルトが好物な澪史はよろこんだ。
雷冠だけは飲食店でなく、遊戯の屋だった。北登はわなげで遊ぶ。的棒に向かってわを投げ入れ、それをくり返すことで点数を獲得すると、おもちゃの景品をもらった。
「うわあ! さすが堂領家! 景品も太っ腹!」
北登は大きなおもちゃの箱を持って小おどりする。それは戸祭家の価値観だとクリスマスプレゼントになるようなおもちゃであった。
「室内で夏祭りごっこね。この発想はなかったわ。来年は、うちも家でやりましょうか」
知柚が言う。亜佐飛たちは賛成した。
「家でやれば、自分たちの好きなお店を出せたり、自分たちのルールでできるもんな」
澪史はそう言って、好物のフランクフルトをほおばる。
「堂領家のみんなは将来いいホテルの経営者になりそうだね」
栄尋が千綺たちに向かって言った。
「栄尋さん、おほめの言葉をありがとうございます。僕たちが子どもながらに経営者としての目線に立つことができたのは、亜佐飛ちゃん、そして、亜佐飛ちゃんの家族のみなさんのおかげです。みなさんを楽しませたい、幸せにしたいという思いが、僕たちを成長へとつなげてくれました」
千綺は笑顔でありがとうの気持ちをしめす。他の三人もそれと同じ気持ちか、ほほえんでいる。お互いに感謝しあっているこの関係はとてもいいものだと、亜佐飛は感じた。
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