第15話 どうすればいいの?



 八月二十五日。亜佐飛は定員二名の部屋で知柚と過ごしていた。この日、戸祭一家は二組に別れて宿泊している。



 亜佐飛はこのホテルでの生活を楽しめば楽しむほど、桂夏といればいるほど、こんな日々も今月の三十一日をもって終わることに、さみしさをおぼえていた。



「この夏が終わらないでほしいな……」



 もしも、非科学的な事象によってこの一ヶ月をくり返さないといけなくなるのなら、亜佐飛はよろこんで受け入れる。そうしたら、ずっと桂夏と一緒にいられるからだ。



 桂夏と同じ学校だったら、どんなによかったか。桂夏と同じクラスには、彼を好きな女子がいるに違いない。夏休みが終われば、桂夏は自分のことなんてすっかり忘れてしまうのではないか。亜佐飛の頭の中は不安でいっぱいとなる。消極的に考えてしまうのは、自分に自信がないからだ。



「私、この先どうすればいいんだろう……」



 亜佐飛は部屋を出て、一階のロビーまで行く。なぜだか富士彦に会いたくなっていた。



「坂和さん、今、時間ある?」



「はい」



「私と坂和さんだけの、内緒の話があるの。相談事がある時はいつもならお母さんに聞いてもらうんだけれど、お母さんには恥ずかしいから、話せなくて」



「口外しないと約束します」



「私、桂夏くんのことが好きになったみたい」



 亜佐飛はほほに手をあてて言う。恥ずかしさから、ほほは熱くなっていた。



「男の子を好きになったのは、桂夏くんが初めてなんだ」



 富士彦は優しい表情で、うん、うんとうなずく。



「ごめんね。坂和さんの仕事には、客の恋の相談に乗るなんて、ないと思うのに」



「いいえ。そんなことはないですよ。ただ、私は堂領家に雇われている身ですので、自分の立場を考えて亜佐飛さまに言葉を返さないといけないのが、申し訳ないところですが――」



「ううん、いいの」



「とにかく、亜佐飛さまが後悔しないことがいちばんです」



「私が後悔しないこと――」



 亜佐飛はそれが何なのかを頭で考える。



「私が後悔するのは、自分の気持ちを伝えずに、桂夏くんと離ればなれになってしまうことかな」



「そうですよね」



 富士彦はにっこりと笑う。話す前から、亜佐飛の気持ちがわかっていたようだ。さすが大人だ、と亜佐飛は思った。



「だけど、告白して、桂夏くんにフラれるのが怖い。一緒にいて楽しいのは私だけだったんだって、気づくことが怖い。反対に告白しなかったら、いつまでも夢を見ているような気分でいられる」



「亜佐飛さま、今日は八月二十五日です。夏休みはまだ終わったわけではありませんよ」



 富士彦は後ろ向きな亜佐飛にエールを送る。時間がまだあるということは、これから次第でどうにでもなるということだ。残り七日で、桂夏に魅力的な女の子だと思ってもらう努力をする、亜佐飛はそう考えた。

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