第14話 結果発表



 その日のうちに、亜佐飛は四人の前で結果を発表しなければならないことになっていた。亜佐飛は家族と夕飯を食べた後、集合場所へと向かう。堂領家の御曹司たちはすでに全員集まっていた。



「亜佐飛ちゃん、だれのデートプランがいちばんよかった?」



 千綺がたずねる。



「まず、鴻数くん。鴻数くんのデートは、千綺くんたちとの勝負を抜きにした、等身大なところがよかった。でも、ホテルじゃなくてもできること、という点が引っかかったかな」



「それはそうだよね。だけど、自分のやりたかったことで亜佐飛ちゃんと遊べて、後悔はないよ」



 亜佐飛に選ばれずとも、鴻数は清々しい表情をしていた。



「次に、雷冠くん。ホテルの安全性を上手く利用して、子どもどうしが夜に会うという発想はよかった。私の知らない遊びも色々と教えてくれて、四人の中でいちばん大人なデートプランだったね」



「ありがとう」



 雷冠はにんまりする。他の三人は亜佐飛に選ばれるのは雷冠なのでは、という焦りの表情をしていた。



「でも、ゲームのルールをおぼえたりで、つねに緊張感がぬけなかったかな。デートって、リラックスすることも必要だと思うの。緊張感と安らぎ、そのふたつのバランスが上手くとれていたら、もっとよかったかな」



「うーん、これは痛いところを突かれた。だけど、ごもっともな評価だよ。俺は亜佐飛ちゃんに知らない世界を見せることばかりに必死になって、亜佐飛ちゃんむりなく過ごせる状態を考えることに欠けていた」



 雷冠は肩を落とす。自分で自分に悔しがっているようだ。



「続いて、千綺くん。ホテルの中でかくれんぼをするというありそうでなかったアイデアは、とってもよかった」



「だよね」



 千綺は自信ありげににやっとする。



「だけど、デートとなると、違うのかな。隠れるか探すかで、会話もほとんどなかったから」



「そっか。鬼に見つかるかもしれないどきどきを、恋のどきどきと錯覚させる作戦だったんだけれど」



「さすが、千綺。考えることが小賢しい」



 鴻数はあきれていた。



「最後に、桂夏くん。映画を見るというのはデートの定番だよね。その点では目新しさがなかったかな」



「……」



 亜佐飛の辛口なコメントに、桂夏は落ち込む。堂領家の人間は全員、このままだと亜佐飛がだれのデートプランも評価しないような流れにも感じていた。



「でもね、このホテルで見るのにぴったりの映画を見せてくれたところがすばらしかったよ。部屋でリラックスしながら、緊張感のある映画を見る、気持ちのバランスがちょうどよかった。桂夏くんといる時の自分がいちばん自然体でいられたなって。よって、私は桂夏くんのデートプランがいちばんよかった」



「えっ」



 桂夏は顔を上げる。急降下したと思えばまた上昇したり、気分の変化の幅はまるでジェットコースターのようだっただろう。



「また、桂夏か」



「僕たちの中でいちばん女の子にたいして不器用なのにな」



 千綺たちはがっかりとする。



「このホテルで見るのにぴったりの映画って、なんの映画を見たの?」



 鴻数が亜佐飛に聞いた。



「ふたりで宝石橋を舞台とした映画を見たの」



「ああ、あの映画ね。見たことないけれど」



「俺は見たことあるよ。名作だと思うけれど、デートで見るような映画かな?」



 鴻数がしゃべった後、雷冠がたずねる。



「このホテルから見える宝石橋が登場する映画を見せる、という心づかいがよかった。私、宝石橋が好きだから」



 亜佐飛がこの生活で宝石橋をしょっちゅうながめていることは、彼女をよく見ていれば気がつくだろう。亜佐飛は桂夏のその部分を高く評価していた。



 その後、亜佐飛は桂夏とふたりきりで会った。ふたりはラウンジの屋外テラスから宝石橋を見渡す。



「亜佐飛、ふたりで見た映画のことなんだけれど」



 のんびりと遠くを見ていた亜佐飛は桂夏の方を向く。



「あの映画に登場したのは本当の宝石橋じゃないんだ。撮影のために宝石橋を貸し切るのがむりだったから、別の場所で撮影せざるを得なかったらしい」



「えーっ! 本物の宝石橋にしか見えなかったよ?」



「そこは映像技術で、どうにでもできるから。俺がまるで本物の宝石橋が登場する映画を見せたって誤解させたみたいで、悪いなと思って」



「ううん」



「千綺たちはその事実を知らないようだから、内緒な」



 桂夏が人差し指を口元にあてて、にかっと笑う。



「デートのことだけど、俺が亜佐飛の初めての相手じゃなかったというのが心残りだ」



 桂夏のセリフに、亜佐飛はどきっとした。



「こ、これからもデートすればいいだけの話じゃない」



「そうだな。また一日デート券を作っておくよ」



 亜佐飛と桂夏はそこで見つめ合う。ふたりの心の距離はまた縮まった。

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