呪いなき遺品

七篠夕

第1話

 オカルト好きが死ぬ、そうすると死因が泥酔による滑落死であっても生前の蒐集品は『曰く付き』となる。


 一般的な感性から導かれる当然の帰結だ。人の死を揶揄する意図はなくとも趣味が悪いと言葉が出る。葬儀場の空気も若くして亡くなった故人を惜しむ悲壮感ではなく、生前の蒐集品への恐怖が制しており、8月上旬の暑さも忘れる肝試し会場となっていた。

 棺の中に入れる副葬品も私物に手を出せなかったためか、花や手紙がメインであった。


 オカルト好きは「中村 さとし」といい、同じ大学の文芸サークルに所属するオカルト好きで、曰く付きの品とそれにまつわる話を集め、部誌に載せることを生きがいにしていた男だった。私と中村はサークルで数少ない真面目に活動する者同士で気があい、学内で行動を共にすることが多かった。


 たいそう酒が好きで、文芸サークルに所属しながら、飲酒を目的としたサークル飲みサーをはしごして酒をあおる、社会人相手にも珍しい酒をたかるため取材と称して懇親会をとりつける、とにかく手段を選ばない生粋の呑兵衛であった。

 また、世の男子大学生はそういった会合に女性との関係を期待するものではないかと問うと、言うまでもないと答えたため、女遊びも好きだったのだろう。中村の酒癖が悪い、女癖が悪いと噂を耳にしたこともないため、節度は守っていたのかもしれない。


 そのように、学内にとどまらない交友関係は葬儀でも遺憾なく発揮されており、訃報を聞きつけた老若男女の十数名が参列、思い思いのお悔やみの言葉や手紙を、人によっては涙混じりに故人と遺族へ伝えているようだった。

 ただ、周りの感情の揺れをみていると、涙ひとつ流せない私は言葉にできない居心地の悪さを感じた。


 結局、最後まで私の感情は葬儀に参列に居心地の悪さを感じたまま出棺、一般参列者は解散となった。

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呪いなき遺品 七篠夕 @YuNanashino

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