第11話
「…ごちそうさまでした。」
「お粗末様でした。朝食はお口に合いましたか?」
リオが満足気に微笑みながら、ミルクティーの入ったカップを差し出す。
月夜の黒猫亭で過ごす事になって数日、リオが毎日朝食を用意してくれている。しかも私より上手に作るのだ。一応自炊は出来るけど、会社勤めの毎日は朝ご飯なんて食べない時も多かった。食べれても菓子パン1個とかバランス栄養食を齧る程度で、座ってゆったりなんて休みの日すら出来てなかった。それは疲れるよなーと、今更他人事のように思う。
それに、何と言っても何もしなくても美味しいご飯が出てくる幸せ…プライスレス。
私はじ~んと幸せを噛み締めた。
「あ~ん、お腹すいたわ〜!リオちゃん、私にもご飯お願〜い!」
そこに元気よく扉を開けてバーバラさんが入って来た。朝食作りに厨房を貸してもらう内に、バーバラさんの分も作るようになったらしい。バーバラさんは玄関扉を閉めエプロンを外すと、一階に併設されている食堂の方へとウキウキで歩いて来る。
「おはよ、お嬢ちゃん。今日の服も素敵よ」
「あ、ありがとうございます…」
私の隣の椅子を引くついでに、バッチーンとウインク付きで服を褒めてもらった。バーバラさんは、見た目ちょっと厳ついオネェだけどこういうのが自然に出来るすごい人だ。私はこんな気の利いた事言えないし、そもそも話しかけられない。リオもバーバラさんの事は信用しているように感じる。
「チアキ様は何を着ても素敵ですよ。…はい、どうぞバルバドスさん。」
「バーバラよぅ!!」
バーバラさんの朝食を持ってきたリオが、私達の間に割って入るようにニュッと出てきた。そのついでになんか謎のフォローをして行く。
「ん~~美味しそう!いただくわね」
今朝のご飯は、クロックマダム風のトーストサンドと野菜のグリルサラダ。それと色々野菜のスープ。こんがり焼けたバケットを切ると半熟卵がとろ~りする美味いやつ。ついでにバケットもリオの手作りだ。
どこでこんな朝活女子が好みそうな物作る技術を付けたのか、精霊って凄いな…
ちなみに私は朝活女子ではない。朝は昼まで寝てたい派だ。まぁ、それも徐々に改善されつつあるが。
「ねーぇ、あんたたち今日ヒマ?」
食後のコーヒーを自分で淹れながらバーバラさんが私達に尋ねた。
「まぁ…特に予定は無いです」
私が答えると、彼はパンと手を叩いてニッコリと笑った。
「あらそう!じゃあちょっとアタシのお手伝いお願いしちゃおうかしら!」
「え?」
「聖女様御一行が到着したから、今日からお祭りが始まるのよ〜!
リオと顔を見合わせると、彼はしょうがないといった感じで苦笑いした。
数十分後、私とリオは食材庫の中にいた。部屋の掃除はバーバラさんが担当し、私達は祭りの出店を任されて、メニューを決める為使える食材を見に来ている。
一階厨房の奥にある食材庫には思ったより色んな物が置いてあった。ここにある物はだいたい何でも使っていいらしい。
とは言え、祭りのメニューかぁ…
「うーん…屋台飯かぁ…」
屋台飯と言えば、たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、ベビーカステラ…
思い付くのは思い付くが、ここは異世界だし、むこうと同じ食材があるとも限らないわけで…しかも特別な焼型とかが要らないやつとなると…
「せめてこっちの食材が分かればなぁ…」
と、何気なく手近にあった何かを手に取る。すると、リオが
「それはじゃがいもですね」
と言った。はた、と私は停止する。
「え…オレンジ色ですが…?」
「はい、チアキ様の知っているじゃがいもとほぼ同じ食材です。オレンジ色ですが。」
いや、わかるんかーい!と、心のなかで私の渾身のツッコミが炸裂した。そう言えばこの人普通に料理作ってたわ…
「…なんでわかるの?鑑定スキル?」
私も欲しいんですけどそれ。私が尋ねるとリオはじゃがいも(異世界の姿)の近くを示して言う。
「その辺にいる小さい精霊がそう言ってるので。」
「なにそれ!いいなぁ〜、私も分かるようにならないの?」
野菜の精霊見たい!と訴えてみると、
「チアキ様には俺だけが見えてればいいんですよ。(ニッコリ)」
と秒殺されてしまった。解せぬ。
「何か思い付きましたか?欲しい食材を言ってもらえれば俺が探します。」
と、狭い食材庫で更に接近してくる始末。
「じゃあ…」
私は、美形との適切な距離感を取りながら、思いついた物を伝えてみた。
祭り会場の広場では、暖色の提灯がアチラコチラに飾られ、美味しそうな匂いをさせる出店が立ち並んでいる。
私達もその中の一角に店を構え、月夜の黒猫亭のエプロンをして売り物の準備をしている。私が思いついた屋台飯は、生の果物に溶かした飴をコーティングして冷やし固めたフルーツ飴と、じゃがいもを螺旋状に切って揚げたぐるぐるポテトの2つだ。
フルーツ飴は向こうでも映えスイーツとして有名で、特別な材料や道具を使わなくても出来る屋台飯(?)の定番だと思ったからだ。
ぐるぐるポテトも同じく。じゃがいもを螺旋状に切る技術が必要だけど、その辺はリオが難なくこなしてくれた。これも油で揚げて、塩をかけるだけのお手軽フードだ。
しかも、揚げた芋は美味い。コレはどの世界でも共通だと思っている。
色とりどりの異世界フルーツにツヤツヤと光を反射する飴が人目を引くのか、作って並べる先から売れていく。
「チアキ様すごいですね!もうすぐ完売できそうですよ」
見た目の珍しさも相まって私達の屋台は何気に順調に売上を伸ばしている。リオは忙しそうに芋を揚げながらも楽しそうにしている。
私は、悪い気はしないかな…等とほころぶ口元を隠せずにいた。
昼を少し過ぎた辺りで、バーバラさんが駆け付けて来た。宿屋の方が一段落したから様子を見に来てくれたらしい。
「あんたたち、頑張ってるじゃない!」
売り上げと材料の在庫が残りわずかなのを見て、嬉しそうにバシバシとリオの背中を叩きながら労ってくれた。
「あとはコレだけね。ここまで下ごしらえ出来てれば後の工程はワタシにも出来るし、あんたたち今日はもう休んで良いわよ!折角のお祭りなんだしウィトの街を見てらっしゃいな」
ハイ!とさっきまで私が作っていたフルーツ飴を手渡して、私達の背中を広場の方へ押し出すと、手を振って見送ってくれた。
パリン!と薄い飴が割れる音が小気味よく、苺に似た果物の果汁が口の中に広がる。美味しい。我ながら天才的なプロデュースだったと、フルーツ飴を咀嚼しながら思った。
「俺にも一口下さい」
と、リオが言うので飴の串を手渡そうとすると彼はあんぐり口を開けて無言の催促を始めた。えぇ…食べさせろって事?
「串に刺さってるんだし、危ないよ?」
「…」
いや、ジーっと見つめるの何?!
すると、諦めたのかリオは突然串を持ったままの私の手ごと掴んで自分の方へ引き寄せた。そのままパクっと一口でフルーツを食べてしまった。
「あっ」
「へぇ、美味しいですね。さすがチアキ様」
私は恥ずかしいやら何やらで訳がわからなくなりそうだった。お互い、お祭りのムードにやられてテンションが上がっちゃってるだけなんだから!酔ってるみたいなもんなんだから!と、何度も心に言い聞かせるも、なかなかはやる鼓動は止まらなかった。
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