第8話 聖女様と聖女専属なんたら
やがて、花畑の女性が口を開いた。
「えっ…待って、高位精霊…?!」
彼女は一步ずつリオに近付いてくる。この人なんでリオが精霊だって見ただけでわかるの?等と思いながら、徐々にハッキリと見えてくる彼女の姿を目を凝らして見ようとした。その瞬間、私の近くで何かがパン!と弾けるような音。と、聞き覚えのない複数の男の人の声。
「何者だ?!」
「聖女様!何をしてくるかわかりません、お下がりください!」
驚いて瞑った目を恐る恐る開けると、リオが私を庇うように立っていた。
「チアキ様、大丈夫ですか?」
「…リオ…」
優しく気遣う声に安心してしまうなんて。さっきの運命の出会いっぽいシーンを見せられて動揺してたのが急に恥ずかしくなってしまう。
「え、なに…何が起きたの?」
「あちら側の誰かが弓を射掛けて来ましたね。」
リオは視線で花畑の方を示す。目を凝らしてよく見ると、花畑にいる彼女の後方から、武装した数人の男の人達が警戒しつつこちらに向かって来ようとしている。剣を構える人と弓を構える人が見えた。私達の足元には、リオが破壊したのか折れて壊れた矢が散らばっている。
「弓…?!」
「大丈夫、俺の背中に隠れていて下さい、絶対当たりませんから。」
そう言うと、リオは彼等の方に真っ直ぐ腕を伸ばした。そして指先を少し動かすと、構えていた武器が彼等の手から弾かれるように吹き飛ぶ。余りにも一瞬過ぎて私は目を疑った。リオは視線を外さずにニヤリと笑う。
「…チアキ様に害のあるものは全て排除しないと。」
武器を飛ばされた男の人達の慌てる声が聞こえる。その様子を呆然と見ていた聖女と呼ばれた女性はハッと我に返ると、私達に向かって叫んだ。
「やめて!私は聖女なの!あの人達は私の護衛騎士で…」
あぁ、あの人が噂の聖女様なのかと、彼女と奥の護衛騎士達を見た。すると、リオからの反応が無かったからなのか、聖女様は大袈裟に一步踏み出して声を張り上げた。
「精霊さん!お願い、私と契約して!あなたに攻撃しないからっ」
(へ?)
若干芝居がかった様な動きが気になるなぁ等と思いながら、リオの影から静観していたが突然放たれたセリフに呆気に取られた。反射的にリオの方を向くと、やはり同じ様に「は?」みたいな顔をしている。
なんだこの人…これって遠回しに脅してる?攻撃されたくなかったら契約しろって意味?
「ねぇ精霊さん!」
また一步、腕を広げてアピールしながら近付いてくる聖女。護衛騎士達は聖女の動きをざわめきながらも見守っているっぽい。
「リオ…」
どうする?これ…と困惑の視線を投げかけると、彼はため息をついて突然私を抱え上げた。
「え?!」
聖女達一同は突然現れた私に驚いたのか、私含め揃って同じ様に声を上げた。が、リオは
私を抱えたまま、無表情で聖女に向かって一言。
「嫌です。」
そう言うとスタスタと来た道を引き返し始めた。途中、地面に置いておいたバスケットも回収しつつ。後ろから聖女の声がするがリオは全く反応しない。彼の肩越しに、聖女が
花畑にしゃがみ込むのが見えた。
「チアキ様、場所を変えましょう。」
困った様に笑いかけられて、私は一連の流れについて行けず、「へぇ…」みたいに頷く事しか出来なかった。しかし、リオの様子を見るに相当不快だったのはわかった。
確かに、向こうから見たら不審人物だったとは言え、急に威嚇射撃されたって事だよね。
しかも意味不明な脅迫まで…
リオが守ってくれなかったら怪我してたかもしれない。そういう世界なんだ…
改めて、ここが異世界ということをわからされた気がした。
数時間後、日が傾き夕暮れに向かい始める頃。私はリオと一緒に街役場もといギルドの扉を開けて外に出た。
「桃月草30本で銅貨6枚…」
私は両手にこの世界での初収入を乗せて、まじまじと見た。あの後、気を取り直してランチの場所を探しつつ、花を摘んでいったら結構な量になった。ギルドの職員さん曰く、だいたい10本位の納品が殆どで30本も持ってきたのは私が初めてらしい。「よくこんなに見つけましたね~」と言われて何か恥ずかしかった。お花摘みに本気出した奴だと思われたかもしれない…
「チアキ様、頑張りましたね!今夜はちょっと豪華な夕食にしますか?」
と、傍らのリオが微笑む。『豪華な夕食』という言葉にさっきまで微妙な気分だったが、なんだか嬉しくなってきた。
確かに、せっかくの初給料なんだし、気分のアガる使い方をするべきだよね。二人で半分ずつ使って食後のデザートを追加しちゃうのも捨てがたい。お酒も良いかも。
などと、お腹のすく想像をしながら役場の外階段を降りると、向かい側の壁にもたれ掛かって腕組みをしている男性と目があった。
「…!」
その人は私達の姿を上から下まで見て確認すると、ツカツカとこちらに向かってきた。どこかで見たような鎧がガチャガチャと鳴る。
「あー…、すまない、私は聖女専属護衛騎士隊長のテオドール・フィンレイという者だ。君が今日の昼頃『魔の森』に居た精霊か?」
「は?」
魔の森…ってどこ?と私はリオの方を見た。
するとリオは私だけに聞えるようにそっと小声で囁く。
「俺達が野営してたあの森の名称らしいです。」
「え、あそこそんなヤバそうな名前だったの?全然『魔の森』感無かったけど…」
「ですね。」
リオは私の呟きにフフっと笑い、なぜかこっちに体を寄せてくる。急にどうした。
私達の前まで来た聖女専属なんたらのテオドールさんは、私の存在にその時気付いたかのようにジッと私を見た。
「えぇと、失礼だが…貴方は?」
「……」
(あー、なるほど〜確かにね、こんな煌めいてる美形の隣にモブ顔が居たら存在感無くなりますよね〜わかります〜)
私は身に覚えのある感覚に何度も頷いた。これは私の顔面の性質上仕方ない事だ。モブ顔の定めと言える。私はこの程度でカチンと来たりしませんよ。
しかし、リオはどうやらカチンと来てしまった様子…さっきまでのニコニコはどこかへ吹き飛び、ものすごく眉間にシワを寄せて黒いオーラを放っている。
「は…?」
「あぁ~、は、はじめまして〜。私はチアキ・イスルギといいます。」
今にも何かしそうなリオを遮るように、フワッとした自己紹介で二人の間に割って入った。テオドールさんはキョトンとしている。
「俺の主です。」
ドヤァと言い切るリオの言葉に、今度はテオドールさんの時が止まった。
うん、わかる。そうなると思った。
しばらく私達を何か言いたげに何度も交互に見た後で、テオドールさんは申し訳なさそうにこう言った。
「あぁ…えっと、聖女様が貴方達に会いたいと仰っている。私と一緒に来てくれないか。」
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