第7話
どうやら、リオは本当に凄いらしい。
私は、出来立てほやほやの
あの後、街役場もといギルドで登録をして、正式にリオが私の『契約した精霊』ということになった。のは、まぁいいとして…
ついでに測定した魔力値で、リオがなんと測定不能を叩き出してしまった。お陰でめちゃくちゃ注目を浴びてしまって…
あの時私に大声で叫ぶ勇気があったら、「皆さん、凄いのはこの人です!私ではありません!だから私に注目しないでー!!」って叫んで逃げたと思う。絶対。
私はジト目で、バスケットを片手に前方を歩きながら、下草を踏み付けている凄い精霊を見た。視線に気付いたのかリオがこちらを振り返り、流れる様に手を差し出す。
「チアキ様、疲れましたか?もう少し行けば野営した場所に出ますよ。そうしたら採取の前にランチにしましょうね」
「ランチ…!あ、いや、そうじゃなくて…」
差し出された手に自分の手を重ねると、軽々と傾斜を引き上げてくれた。
よっこいしょと坂を登ると、何となく見覚えのある森が広がっている。別に目印なんて付けていた訳じゃないのに良く覚えてるなぁ、と素直に感心してしまう。リオの後に続いて藪をかき分け進んでいると、何気なく見た草むらに桃色の花を見つけた。
「あっ、ね…ねぇ」
リオの服を少し引っ張ると、すぐにこっちを向いてくれる。あれ、と指差した方を見たリオは桃色の花を見ると「おぉ!」と歓声を上げた。
「チアキ様、見つけましたね!流石です。依頼書の特徴と一致していますし、恐らくコレが桃月草でしょう」
「あ、いや…」
褒められるような事はしていない。てゆーか、ここにあるって言って連れてきてくれたのはリオなんだし…
「たまたま私が先に見付けただけだよ」
そう言うと、リオは頭を横に振る。
「いいえ。もしかしたら、花がチアキ様を選んだのかも。」
リオはそう言いながら、見付けた花をそっと手折って、私に手渡した。
「俺のように花にも精霊がいますからね。」
そんな風に、「ね?」と微笑まれるともう頷くしかなくないですか?!私は、照れとやり場のない感情を持て余し、花を持ったままギュンと後ろを向いて顔を隠した。
「も、もしかしたらまだ近くにあるかも!」
花を探すという事にして顔の熱を冷まさねば…、いや、あわよくば花も欲しいけど!
リオは見当違いの方向へ進んでいく私の背中に呼びかける。
「チアキ様〜野営跡はこっちですよ~、…全く、可愛らしい人だ。」
そして、フッと表情に影を落とす。
「…花だろうが何だろうが、他の精霊なんかにチアキ様は渡さないですけどね。あの人には俺だけがいれば良いんだ…」
「あっ、あった!…また!あ、ココにも!」
え、花めっちゃあるんだが?
リオが後ろで呼んでいるから、この辺で引き返そうと思っているのに桃月草が群生しているらしく引き返せない。
両手に抱える程になってきたから、そろそろやめようかと視線を戻すと藪の向こうから歩いて来るリオが見えた。
両手いっぱいの花を自慢しようと、一步踏み出した瞬間木の根らしき物に足を取られて、ぐらりと体が傾いた。
「チアキ様!」
転ぶと思った瞬間、花を抱えていた手が離れて桃色の花がブワッと舞い上がった。その中で視界に飛び込んでくる、煌めく黒。
(綺麗…)
今、自分は転んでいる最中というのを忘れる程見惚れてしまっていた。
気が付くと、私はリオの腕の中にいた。転ぶ瞬間に私を受け止めてくれたらしい。そのせいで、押し倒す様な体勢になってしまっている事に気付く。
「ごっ、ごめんなさいすいませんすぐどきます!!」
驚いて飛び退こうとするが、なぜか体が動かない。パニックになる頭で動かない原因を探した。
…あれ、これ抱き締められてません?
背中というか腰ら辺にどなたかの腕を感じるんですけど…?リオさん?
「あの…」
「スーーッ(吸い込む音)」
「ちょ、匂い嗅ぐな!!ヘンタイ!!」
せっかくさっき、綺麗って思ったのに!!やっぱ無し、撤回します!!
「…もう少し堪能させてください…」
「やだぁ~(泣)」
なぜか放してくれないので、自力で脱出を試みる。ガッシリ捕まった腕の中でもがいていると、ふと少し遠くの方に気になる物を見付けた。桃色や白といった柔らかい色合いが陽の光の中で揺れている。あれって…
「すご…」
一面の花!桃月草だけじゃない、多種多様、色とりどりの花が木々の間に突然拓けたこの場所に密集するかの様に咲いている。
リオを説得し、解放してもらってそこへ駆け寄った私は思わず立ち止まって歓声を上げた。後ろからやって来たリオも、この景色に驚いたのか私の横に立ち一面の花畑を呆然と眺めている。
「これは…見事な…」
「でも、ここの花は採っちゃダメな気がする…」
あまりにも神々しい景色過ぎて、ここの花を摘み取ろうという気持ちにならない。
そう呟くと、リオが意外そうにこちらを見た。
「…どうしてです?ホラ、月白草もありますよ?」
と、指差した先には確かに依頼書にあった白バージョンの花が。でも…
「何か、わかんないけど…何となく。」
ハッキリと理由を言えずモゴモゴとした返答になってしまった。カッコ悪さから、くるりときびすを返すと今来た道を戻ろうと歩き出す。こういう時、ズバッとカッコいいセリフが言えたらよかったのになぁ~と自分の語彙の貧弱さを呪いつつ、リオの足音がしない気がして振り返った。
「リオ…?」
その時。
花畑を挟んだ向かい側の森から人の声がした。
「キャー!すごーい、お花がたくさん!」
私の居る位置からは声の主の姿は見えないけど声色なんかから若い女性だと何となくわかる。そして、その声の方を向いたまま動かないリオの背中が見えた。変な胸騒ぎを感じてリオの元へと戻ろうと踏み出した瞬間。
ザァッと風が吹き抜けて花びらが舞い上がった。その中で向かい合うリオと、花畑の中に立つ知らない
コレが恋愛ドラマだったら、恋が始まる定番曲のあのイントロが流れたに違いない。その位画になる感じだった。
私はリオの後ろからその光景を何も言えずに立ち止まって見ていた。胸騒ぎは止まない。
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