異能戦国時代

時川 夏目

第一章*伊那郡

第一話…誤殺からの転生


「酷い事や思いません?僕普通に生きとうただけやのに、いきなし殺されるなんて」


 真っ白で何も無い世界におちゃらけた男の声が響く。声の主は身の丈が180程ある男であり、その対面には土下座をする老人がいた。

 男は少し離れた距離にいる老人に向かってカツカツと甲高い足音を鳴らしながら近づく。


 足音が鳴り止むと、老人はゆっくりと顔を上げる。するとそこには、穏やかな笑顔をしながらも鬼の威圧感を放つ男が狐のように鋭い目を向けてしゃがみ込んでいた。

 その光景に老人はボタボタと滝のように汗が溢れ出る。


「さすがに許されんでしょう。神さまが酔った勢いで人殺すんわ」


「本当にすまんかったッ!」


 土下座をかましている老人は地面を削る勢いでひたいを床へとこすり付ける。


「えらい焦っとんねえ。あれ?もしかして…現世うつしよの人間殺すんは不味かったんと違います?」


「えっ?!あ!いやそ、それは…」


 男の言葉に老人はさらに焦りを見せた声であたふたとし、更に全身から滝のように汗を垂れ流し始める。


「そないにビビらんくてもええでしょ?それに僕かてあないな世界飽き飽きしとったんですよ。そやからここはひとつ、互いにうぃんうぃんな関係で終わらしまへんか?」


「いいの?!」


 老人はバッと泣きじゃくって汚れた顔を勢いよく上げて男に涙目を向ける。

 だが老人のその目先に写ったのは、酷く悪人という言葉が似合う笑顔を向ける男の顔であった。


「安心してええですよ?僕そこそこ約束守る質なんで。そないな訳で僕に下さい、異能力」


「…ハイ」




 ▼


 時は戦国、己が武を存分に奮い天下をその手に掴み取ろうと激しくぶつかり合う戦乱渦巻く群雄割拠ぐんゆうかっきょの時代。

 鋭き刃を持つ刀が、敵を穿つ槍が、心の臓の射止める矢が数多あまたひしめき合う中、一層激しく衝突し合うは逸脱した神の如き力、“異能”。


 異能を持つ者が戦場に一人降り立てばそこに広がるはまさに地獄。

 たった一人で戦況を左右する者さえいる戦国の世を人々はこう呼んだ――


“異能戦国時代”と!




 ▼


 肌を撫でる風、日によって照らされる緑色の葉が輝く森にて、神に殺された男は死の国と呼ぶに相応しい世にて目を覚ます。

 黒い髪を風邪で揺らし、和装に身を包み左の腰には一振の刀を携えその場に佇んでいた。


「…わぁ、深い森やなぁ……」


 史実とは大きく違う戦国の世にて彼、黒神亮仙くろがみりょうせんの第二の人生はこの一言から始まった。



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