第14話 舞台は整った

 ニューキャピタル・タイムズ。

 アルメビア首都のユグノーヴァで、最大発行部数を誇る新聞社である。

 その新聞の社会面を担当する編集部が、朝から騒然となっていた。


「なんだ朝から、騒々しい……」


 たった今出社してきた社会部編集長、ターナー・レストンは部員たちをたしなめた。


「編集長!! これを!!」


 部員の一人が手に持っていた便箋をターナーに見せる。


「E&E……あのエジソンとアインシュタインのコンビか?」


 ターナーは慌てて書面の全文に目を通した。


「どうやらうちだけじゃなく、新聞やラジオ各社にばらまかれてるようです」


 一通り読み終わったターナーは、この手紙で最もセンセーショナルなキーワードを反芻する。


「世紀の……大発明だと……」


「どうします?」


「どうせ他にめぼしいネタもないだろう? ガセでも、こけおどしでも何でも構わん!! 回せるヤツ全員まわせ!!」


 その掛け声で、社会部部員たちは一斉に動き出した。




 ユニオン・スフィア広場。

 首都ユグノーヴァの中心街の一角にある広場であり、ユグノーヴァを象徴するランドマークの一つである。


 その広場の中心に、イベント用の大きな舞台が設営され、その上に謎の機器が運び込まれていた。

 直径2.5メートほどの金属の円環で、脇から大量の太いコードが伸び、周囲の計器に繋がっている。

 エディたちの研究所にあったあの円環である。

 ただし、研究所にあったときと違い、円環は水平に置かれている。

 さらに作業員たちは、その円環を囲むように立方体状に金属の櫓を組み立てていく。




 それらの光景を、広場に面したビルの屋上から双眼鏡で監視している者たちがいた。


 シックなカラーの背広を着た男たち。

 オーウェンを追っている国防研究委員会のエージェントたちである。


「全く、天才たちの考えることはわかりませんね……」


 エージェントの一人が双眼鏡から目を外し、そうぼやいた。


 本日早朝、新聞やラジオなどの報道機関各社にとある投書が届いた。

 差し出し人名義は“E&E”。

 投書の内容は、このユニオン・スフィア広場で、世界を揺るがす大発明の発表会を行うというものだった。

 その情報はすぐに政府も知るところとなり、オーウェンを連れ去ったE&Eの名義であることから、彼ら国防研究委員会も見過ごすことができず、このように広場の周囲に人員を配して監視を行っているのだ。


「天才といっても、所詮はそれぞれの得意分野での話。自身の畑の外では我々凡人と変わらんよ」


 エージェントたちのリーダー、Mrトールマンは憎々しげにそう応えた。


「とすれば、我々は彼らの意味不明な行動をどう解釈すればいいのでしょうか?」


「一番考えやすいのは陽動だよ。我々や各国のエージェントの目をここに集めておいて、オーウェン・ロバートソンを国外に逃がす。とかな」


「たしかにありそうな作戦ですね」


「空港と港は厳重に固めてある。彼らがどんなに奇天烈な踊りを踊っても、我々の掌の上だ」


 トールマンはそう言って余裕を見せながらも、胸中の言い知れぬ不安を拭いきれなかった。




 時間が経つにつれて新聞、ラジオ各社の報道員たちが続々と広場に集まってきていた。


「大盛況ですね……」


 設営された舞台の袖で、集まってくる群衆を見回しながらエインはそう呟いた。

 おそらくこの中に政府のエージェントや各国のスパイも大勢紛れているだろうと考えると頭が痛かった。


「俺たちE&Eが手がけた世紀の大発明だ。静かすぎるぐらいだぜ」


 舞台裏にまとめた計器類を操作し、最終調整を行いながらエディがそう返した。


「まあ、そう言われると同感です」


 調整が終わり、エディは舞台上に目を向けた。


「舞台は整った。ショータイムといこうか!!」



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