第12話 たった一つのクールな方法
「あなたは誰の命も奪ってなんかいませんよ」
頭を抱えて泣き叫ぶオーウェンにエインが優しく語りかける。
「このタイミングで私の手元にこれがあったのは、“神の悪戯”か……いや、きっと“神の計算”の内なのでしょう」
エインは持ってきていた鞄から書類の束を取り出し、オーウェンに渡す。
その文書のタイトルにはこう書かれていた。
『転生者を対象とした心理検査、知能検査。その前世との比較考察』
「まだ発表前の論文です。友人の心理学者から意見を聞かせてほしいと預かりました。だから、内容はくれぐれも口外しないでください」
「これは……」
オーウェンは受け取った論文の中身を一枚一枚、順に確認していく。
「長い間、転生者は『彼の世界』の偉人達の生まれ変わりだとされてきました。彼らの記憶を保有しているのですから、そう考えるのが自然です。ですが、その研究では転生者の人格や知能は、その前世とあまりにもかけ離れていることがわかりました。ちなみにその研究のサンプルには私やエディも含まれています」
中身を読み進めていくにつれて、オーウェンの表情が驚愕に満ちていく。
「この論文は、今まで転生者と呼称されてきた人々は、『彼の世界』の偉人達の生まれ変わりではなく、その記憶だけを受け継いだ全くの別人だと結論づけています」
「そんな……」
論文を最後まで読み切り、オーウェンは愕然とした。
「長い間、違和感はあったんですよ。偉人の生まれ変わりというには、人格の滅茶苦茶な、品位のかけらもない人が多いですからね。その最たる例が、エディとステラですけど」
エインは苦笑して肩をすくめる。
「もっとも、何故このような現象が起こるのかは全くの不明だし、偉人の記憶がこの世界に及ぼす影響力と社会的な意味は同じですけどね。仮にこの論文が公開され、その内容を世界が認めたとしても、各国がオッペンハイマーの知識を求めてあなたを追い回すことにかわりはないでしょう」
論文を読み終わって固まっているオーウェンの肩に優しく手を添え、エインは語りかける。
「だが、あなたはオーウェン・ロバートソンであって、ロバート・オッペンハイマーではない。だから、あなたは誰の命も奪ってはない」
エインの言葉にオーウェンは感謝を述べる。
「ありがとう……エイン……あなたのおかげで、僕の心は救われたよ……」
オーウェンは立ち上がって、エインの正面に向かって立つ。
「だけど、あなたも言ったとおり、ここには依然として原子爆弾を生み出す知識がある」
そう言って、オーウェンは人差し指を自分のこめかみに突きつけ、涙を流す。
「こんなものを持って生まれてしまった僕は、やはりこの世界に存在しちゃいけないんだ。だから……」
「オーウェン、それは違う!! 存在しちゃいけない人間なんて、この世にいな……」
エインは立ち上がってオーウェンを諭そうとするが、そこに奇天烈な声が割って入る。
「キターーーーーー!!」
エディが歓喜に発狂しながら、二人の間を駆け抜けた。
「人がいいこと言おうとしてるところで、あなたは……って、猿?」
何がどうなっているのか、エディは一匹の猿を抱えていた。
「たった今、何もかも全部キレイスッキリ片付くクールな方法が爆誕した!!」
その猿を二人の方に見せつけ、エディは不敵な笑みを浮かべる。
「俺達に乗るか? オーウェン・ロバートソン!!」
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