第11話 苦悩

「ちょっと、エディ、何考えてるんですか?」


 エディが考えていることを察し、エインが表情を強張らせて問い詰める。


「いや、えーと、その……」


 エディは「やべ、バレた」という顔で、明後日の方向に目を泳がせ誤魔化そうとするが、エインがきつく言い含める。


「駄目ですよ!! あまりに非人道的です!!」


 二人の話の内容についていけず、オーウェンが「何の話ですか?」と質問するが、「なんでもありません!! あなたは気にしないで下さい!!」とエインは不機嫌に答えた。


 そして、また沈黙が室内を支配する。


「あーっ!! 色々あり過ぎて、考えがまとまらん!! 気分転換にメシの支度でもしよう。そろそろ腹が減ってきたところだしな」


 そう言ってエディは立ち上がる。


「食料の備蓄なんてしてましたっけ、ここ?」


「アップルパイの材料は常備してる」


「あなた、たしか、前世でアップルパイの食べ過ぎで糖尿病になったんじゃなかったでしたっけ?」


「『イギリス人には発明の才能がない。それはパイをたくさん食べないからだ』」


「はいはい、あなたの言葉でしたね……」


「そう言うお前こそ、マカロニスパゲッティばっか食ってたんじゃないのか?」


「日本の海苔の佃煮も好きです」


 そんな他愛のない前世トークを繰り広げながら、エディとエインは隣室のキッチンに向かう。


「僕も少し気分転換したいので、外の空気を吸ってきます」


 キッチンに向かう二人にそう伝えて、オーウェンは研究所の外に出た。


 エディとエインの秘密研究所は、首都郊外の小高い丘の上にり、周囲の田園地帯がきれいに見渡せた。

 オーウェンは研究所から少し離れた草むらに腰を下ろした。


 日はもう沈んでおり、空には星が光っている。

 この一帯は民家も少ないので、星の光はひときわ強く、空を横切るように光の大河が横たわっていた。


 オーウェンはしばらく星空を眺めたあと、大型の拳銃を取り出した。

 研究所の床に放り出されていたもので、こっそり持ち出してきたのだ。

 オーウェンは銃口を自分のこめかみにあて、引き金に指をかけた。


「やめたほうがいい」


 背後から声をかけられ振り返ると、エインが立っていた。


「止めないで下さい。僕はもうこうするしか……」


 思いつめた表情のオーウェンに、エインはすごく言いづらそうに告げる。


「いや、その……それ、銃じゃなくて、エディが発明したパティーグッズなんです」


 オーウェン「へ……」という間の抜けた声をあげたあと、恐る恐る明後日の方に銃口を向けて引き金を引く。

 パンっと控えめな音を立てて、銃口から小さな国旗がいくつも連なった紐と、カラフルな紙吹雪やテープが放出された。


「そんなくだらないものばっかり作ってるんですよ。彼がトーマス・エジソンの生まれ変わりだというのが、僕は未だに信じられない」


 そう話しながら、エインはオーウェンの横に腰を下ろした。


「だが、彼はまぎれもなくエジソンなのでしょう? あなたがアインシュタインであり、僕がオッペンハイマーであるのと同様に」


 パティーグッズの銃を地面に放り捨て、オーウェンは胸に秘めていた思いを吐露する。


「どれほど否定しようとしても、僕は原子爆弾を生み出したオッペンハイマーなんです。僕が生み出すものが、この世界でもまた何千、何万もの人々の命を奪う。僕はもうそんなことに耐えられない!! 僕はもう、これ以上人の命を奪いたくない!!」

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