第9話 国家間の争奪戦
エインが告げた事実にオーウェンは愕然とした。
「そんな……あなたまで……」
「アインシュタインは核兵器開発に直接携わったことがあるわけではないので、私の前世の知識がそこまで役に立つとは思えませんが、政府としては猫の手も借りたいといったところでしょう。だが、彼のあなたを見る目はまったく違った。まるであなたを手に入れることが、核兵器を手に入れることとイコールであるかのように。そう考えれば、あなたの正体を推察することは容易でした」
エインは今後の国家間の攻防を予想しながらため息をつく。
「あなたの出現で、この世界の核兵器開発競争は大きく動くことになる……というよりも、もう貴方の争奪戦になるでしょうね」
オーウェンは頭を抱えてふさぎ込んだ。
「こうなることは目に見えていました。だから、僕も前世を隠したまま今生を終えるつもりでした。だが、僕は物理学への探求心を捨てられなかった。それで、国立工科大学に進学しようと勉学に励んでいました。ですが、数ヶ月前、政府に僕の前世を知られてしまったのです」
「政府は国力強化のために、転生者を探し回っていますからね。国内の教育機関では成績の飛び抜けた生徒を常にチェックしているはずです。おそらくその網に引っかかってしまったのでしょう」
そこである疑問が生じ、エディが口を挟む。
「だが、お前が自分でオッペンハイマーの生まれ変わりだって言わなければ、どこの誰の生まれ変わりかまではわからないだろ? 喋ったのか?」
その問いに、オーウェンはしばらく躊躇ったあと、身震いしながら答えた。
「精神魔法で頭の中を覗かれました」
その内容にエディもエインも絶句した。
「噂には聞いたことがあるが……」
「まさか、この国の政府がそこまでやるとは……」
転生者の知識はときに国家間のパワーバランスを大きく左右する。
ゆえに、どの国も転生者を見つけ出して知識を引き出すことに血眼になっている。
そんな国際情勢であるため、国によっては精神魔法を使って頭の中を調べ尽くすなどという噂もあったが、エディもエインもさすがに都市伝説だと思っていた。
だが、そんな非人道的な手段をこの国の政府は実際の行っていたのだ。
「不幸中の幸いだったのは、この国の精神魔法は意識の浅い部分しか覗けないようで、原子爆弾の製造技術までは読み取られませんでした。しかし、それから僕はずっと政府の施設に監禁され、尋問を受けていました。」
そんな監禁と尋問の日々は、肉体的にも精神的に筆舌に尽くしがたい体験であったらしく、オーウェンは自分の手で自分の体を押さえガクガクと震えていた。
「その一方で、この数ヶ月の間に、政府内に潜んでいた他国のスパイから、僕の情報はいくつかの国に流れてしまいました。そして、僕を拉致するために潜入部隊を送り込んだ国がありました」
「ちょっと待て、そんな強行手段に出る国って、まさか……」
エディたちが住むこのアルメビアは現在、大国と言って差し支えない国力である。
そんな国に、少数のスパイを送り込みくらいまではともかく、武力行使まで想定した人員を秘密裏に配し、強硬手段にでるなど普通の国にはできないし、やろうとすら思わない。
ただ一国を除いて。
オーウェンはその名を口にした。
「ゲルムラントです……」
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