第6話 E&E

 謎の一団を撒いたエディたちは、首都の繁華街にある行きつけのカフェにやってきた。

 店内に入ると、すぐさま香ばしいコーヒーの香りが鼻孔をくすぐってくる。

 平日であり、ランチライムからかなり時間が過ぎているので、客はまばらである。

 エディたちの姿を確認し、カウンター席の奥に立つ20代の若い女性が笑顔で迎える。


「いらっしゃい」


 輝くような金髪と笑顔の明るい女性で、街を歩けば5秒で男が寄ってきそうな美人である。


「よう、ナタリー」


 女性――ナタリーに軽く挨拶して、エディたちはカウンター席に座る。

 だが、エインだけは不機嫌そうに距離を取って座る。


「あら、その子は?」


 エディの隣に座った見知らぬ少年を見て、ナタリーが問う。


「俺達も知らない」


「また、何も考えずに揉め事に首を突っ込んだのね……あなた達……」


 ナタリーはまたかーという顔をしてそう呟くが、それをエインが仏頂面で訂正する。


「私達がじゃなくて、、ですけどね。私はもう下ります」


 不機嫌なエインを気にせず、エディはカウンターに置いてあったメニューを開いて少年の前に差し出す。


「最初の1杯だけ奢ってやる。好きなモン頼みな」


「『だから、事情をあらいざらい喋れ』でしょ?」


 エディの言葉に、そっぽを向いたままエインが付け加える。


 少年もそういう意図だろうと察していたようで、俯きながら語り出した。


「助けて頂いたことは感謝しています。ですが……これ以上、僕に関わらないほうがいい」


「関わるなと言われれば関わらないさ。だが、俺の探究心はすでにお前が追われていた理由に釘付けだ」


「探究心じゃなくて野次馬根性の間違いでしょう?」


「横からいちいちうるせーな、お前は!!」


 エディとエインの小競り合いを一切気にかけず、少年は言葉を続ける。


「知らないほうがいい。僕が抱えているものは世界の命運を大きく左右します」


 世界の命運……


 その言葉にひっかるものがあり、それまでずっとそっぽを向いていたエインが少年の方に向き直る。

 そこにいるのは、今日まで一度も会ったこともないはずの見ず知らずの少年である。

 だが、本能的な何かがエインの記憶中枢を刺激してきていた。


「君、どこかで会いましたか?」


 エインのその言葉と様子に、少年も何かを感じ取ったようだった。


「あなたは……」


 少年が何か言いかけたところで、店の扉が音を立てて乱暴に開かれた。

 中に入ってきたのは背広を着た10人程の男たち。

 そして、その一番最後に入ってきた男は、エインの知っている人物だった。

 ネイビーブルーのスーツ、アイボリーの中折れ帽、そして……

 左眼を囲む大きな火傷の跡。

 エインは男の名を呟いた。


「Mr.トールマン……」


 その場にエインがいたことに、トールマンは驚いている様子だった。


「アルブライト教授……まさか、貴方がこの件に関わっていようとは……」


「この件?」


 エインは何のことかわからないという表情を呈し、その反応にトールマンはさらに驚きを深める。


「もしや、知らずに関わっているのですか? その少年が何者か……」


 トールマンは視線をエインから少年の方へ移す。


「ご同行を」


 トールマンのその言葉を合図にするかのように、男たちが懐から一斉に拳銃を取り出し少年に銃口をへ向ける。


「どこへなりと連れて行けばいい。ですが、僕はどんな拷問を受けようと協力しません。なぜなら、僕はこの世界に、“彼の世界かのせかい”と同じ運命を辿らせたくありません!!」


 少年は揺るぎない意志のこもった目で力強くそう言い放った。


 そして、少年の言葉の内容を聞いて、エインの頭の中で思考が繋がる。


「なるほど……おおよそどういうことか見えてきましたよ」


 エインはスーツの内ポケットから金属製のサーベルの柄のようなものを取り出した。


「光子よ……刃となれ」


 次の瞬間、空気中から光の粒子が集合し、柄の先に光の刃が形成される。


 見たこともない代物だったが、それが何らかの武器であると判断した男たちは、少年からエインの方に銃口を移す。

 だが、その時にはもう遅かった。

 エインは地を蹴り、光のサーベルを凄まじい速さで振るい、男たちの持つ銃をまるでチーズのように銃身を斬り落とした。


「まったく、魔法の光というやつは、やはり既存の物理法則で説明がつかない」


 エインは、おおよそ10丁の銃を一瞬で無力化した光の刃を見つめながら、忌々し気に呟いた。

 そして刃の切っ先をトールマンの方に向ける。


「エディ……気が変わりました。私も乗ります」


 エインのその言葉に、エディは満面の笑みを浮かべて、コートの内側から大筒の銃を取り出す。


「そうこなくっちゃ。やっぱりおめーは俺と同じ、頭のキレるイカレた天才バカだな、エイン!!」


 エインとエディのやり取りに、トールマンは怒りを露わに叫ぶ。


「あなた方!! 正気ですか!? 我々国防研究委員会を……いや、アルメビア政府を敵に回す気ですか!?」


 エディとエインは互いに歩みより、並び立つ。


「相手がどこの誰であろうと……」

「俺達には関係ねー。なぜなら……」


 エディは銃を構えて、力強く叫ぶ。


「俺は、エディ=サン=トンプソン!! 世界最強の発明王の生まれ変わりだ!!」


 エインは刃を構えて、静かに呟く。


「私は、エイン=シュテイン=アルブライト。世界最高の物理学者の生まれ変わりです」


 二人の大仰な名乗りに、トールマンは忌々し気に言葉を絞り出す。


「そうでしたね……あなた達はチームでしたね……この首都ユグノーヴァで起きる厄介事を次々に解決しているトラブルシューター……エジソンとアインシュタインの転生者バディ、通称……」


 そして、トールマンはその名を叫んだ。


「E&E!!」



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