第5話 邂逅

 実験を終えたあと、二人は車で再び都心方向に向かっていた。


「これからどうします?」


 フロントドアに頬杖をついて、風とともに流れていく景色をぼーっと眺めながら、エインは呟いた。


「とりあえず、しばらくは向こうからの反応を待つさ」


「本当に返ってくると思ってるんですか?」


「ああ、必ず返ってくる」


 特に根拠があるわけでもないのに、エディは自信たっぷりに答える。


「仮に何か反応が返ってくるとしても、何年後になるかわかりませんよ」


「『私は先のことなど考えたことがない。すぐに来てしまうのだから』お前の言葉じゃなかったか?」


「『待っている間も努力する者に全てのものがやってくる』貴方の言葉でしたね?」


 と、互いの名言を使って皮肉を言い合う。

 こんな壮大な皮肉の応酬は、歴史に名の残る偉人くらいしか……いや偉人の生まれ変わりくらいにしかありえないことである。


「もちろん、待ってる間にまた次の発明を考えるさ。お前はどうする?」


「魔法の物理法則について、そろそろ本格的に研究を始めようと思います。あんな訳のわからない現象をいつまでも捨て置けませんからね」


 エインはかわらずだらんと頬杖をついて、明後日の方を向いたままだったが、その瞳は何か強い意思に燃えているようだった。


 二人を乗せた車は、交差点の赤信号で止まった。

 田園地帯は終わったものの、首都の中心街からはまだまだ遠く、建物もまばらな過疎地域である。

 特に会話もなく信号が変わるのを待ちながら、二人の意識はここではないどこかを泳いでいた。

 と、そこで、どんっという音が、二人の意識を現実に引き戻した。

 見ると、ボンネットの左横に15歳前後くらいの少年が両手をついて、「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」と息をきらしていた。

 金髪に蒼い瞳。

 顔立ちは中性的で、肌は透き通るように白く、少年らしい短髪と服装でなければ、少女と見間違えるような容姿である。


「ごめん!!」


 少年はそう言って、ボンネットの上を乗り越え、エディたちの車の逆方向に全力で走り去っていった。


「なんだ?」


 二人の疑問に答えが与えられる間もなく、次は数人の黒服の男たちが少年を追って走っていった。


 その様をエディは首をねじって、目で追いかける。

 さらにエディのその様を、エインは嫌な予感がしながら眺めている。


「今何考えてます?」


「んー……もめ事に首っ突っ込んだらめんどくさいことになるよなーってのが1%」


 エディはエインの方を向かず、さして興味がなさそうな声を装ってそう答える。

 が……


「残り99%は?」


 その問いにエディは振り返り、目をキラキラさせながら、新しいおもちゃを手に入れた少年のような声で答える。


「おもしろそうだから突っ込もう!!」


 その答えにエインは額を手で押さえ、ため息をつく。


「でしょうね……」


 エインが全てを諦めるのとほぼ同時に、エディは車のギアを操作し、ハンドルを切り、アクセルを踏み込んだ。

 タイヤと地面がぎゅるるっ!! と摩擦を起こし、車体は急加速でUターンする。

 対向車線を走り、あっという間に男たちを追い越し、少年の前に回り込む。


「乗れ!!」


 エディがそう叫ぶと、少年はコンマ一秒で判断を下し、後部座席に乗り込んだ。

 少年が乗り込んで、リアドアが勢いよく閉められたのと同時に、エディはアクセルを踏み込み、再び急加速する。


 エディが「ふぅ」と息をついたのもつかの間、左のサイドミラーがバリンッ!! と割れた。

 三人共すぐに、後方から銃で撃たれたと直感した。


 後方を見ると、別働隊が遅れて来たのか、先程とは別の黒服の男たちが車で追いかけてきていた。

 運転手以外は拳銃を手にしており、こちらに向けて容赦なく発砲してきていた。

 走行中の車同士なので、そうそう当たらないが、何発かはこちらの車体を掠めていた。


「連中、実弾打ってきてますよ!!」


「くそ!! どこのマフィアだよ!?」


 毒づきながらもエディは追手たちをどう処理するか思考を巡らせる。

 そして、考えをまとめて行動に移す。


「運転代われ!!」


 エインに向かってそう言い放ったあと、エディは立ち上がって後部座席に移る。


「え!? ちょっと!! そんないきなり!!」


 エインはパニックになりながらも運転席へ移りハンドルを掴んだ。


 後部座席に移ったエディは、重々しいコートを広げ、左側からショットガンのような大筒の銃を取り出す。

 その銃の根元を操作して弾倉を開け、コートの右側から40mmはありそうな大口径の弾丸を詰める。

 弾込めが完了し、折りたたみ式の屋根を後ろに畳み、立ち上がって後方に銃を構える。


「喰らいな……俺の2201個目の特許だ!!」


 引き金を引き、轟音が鳴り響いて小型の大砲の如き巨弾が射出される。

 弾丸は追手のボンネットに炸裂し、小規模の爆発を起こして追手の車は走行不能となる。


 銃口から硝煙がくゆる銃を肩に担ぎ、エディは満足げに呟いた。


「ナイスショット」



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