第4話 青い光

 2時間後、二人は首都郊外の田園地帯にある古めかしい一軒家の中にいた。

 築50年以上は経っている木造で、室内は薄暗く、少しかび臭い。

 そんな環境に似つかわしくない、物々しい機械やコード類が室内にごった返していた。

 そして、その中でひと際目を引くのが部屋の中央にある巨大な金属の円環だった。

 直径は2メートルはあり、天井すれすれの大きさで、脇から大量の太いコードが伸び周囲の計器に繋がっている。

 その計器の一つから大きなレバーが突き出ており、そのレバーにエディが手をかけている。


「よし……いくぞ!!」


 自身を奮い立たせるかのように気合の声を発し、エディはそのレバーを手前に倒した。

 がしゃんっとという音が響き、円環に繋がっている全ての機器が重々しい駆動音を発し始める。

 数秒後、円環の中に光の渦が現れる。

 光は青白く、薄暗い室内を照らし出す。

 その光はどこか希望めいているようでもあるが、その渦は世界の全てを飲み込みそうな深みがあった。


「しゃあっ!! きたぁっ!!」


 エディが歓喜の声を上げる。


「まだ成功と決まったわけじゃありませんよ」


 高ぶるエディをエインが横から諫める。


「わかってる……ここからがフェイズ2……」


「ええ、この光の向こうがどうなっているか……」


「そして、それをどうやって確かめるか……」


 二人は光の渦を見つめながら、熟考する。


「お前、飛び込む勇気ある?」


 エディの問いにエインはひょいと肩をすくめる。


「御冗談を。貴方はどうなんですか?」


「飛び込んでみたい好奇心が1%」


 エディは冷や汗をかきながらも、虚勢を張ってにやりと笑う。


「残り99%は?」


「怖い」


 エディは情けなく虚勢を引っ込めた。


「でしょうね……」


 二人はため息をつき、またしばし沈黙して長考する。


 しびれをきらしたエインがとりあえず思いついた案を口にする。


「猿か何かで生体実験しますか?」


 その内容にエディはあからさまにドン引きした表情をする。


「うわー、ひくわー。さすが猫を毒ガスの詰まった箱に放りこむ実験やっただけのことはあるわー」


「あれは私じゃありません。それにあれは思考実験なので、実際にはやってませんよ」


 失敬なとエインはまたも不機嫌になる。


 と、そこでエインが作業台の上に無造作に置かれていた白い紙を手元に引き寄せる。


「何か思いついたんですか?」


「なーに、とりあえず、手っ取り早い方法から試してみようと思ってな」


 そばにあった太字の油性ペンを手に取り、大きな筆致で文字を書き込む。

 そこにはこの世界の言葉ではなく、彼らの前世の世界の言葉でこう書かれていた。


『Hello World』


 エインが困惑しているうちに、エディはその紙を折りたたんでいく。


「これをこーして……こーして……」


 出来上がったのは紙飛行機だった。


「こーする!!」


 エディは出来上がった紙飛行機をひゅっと光の渦の中に投げ込んだ。

 紙飛行機は光の中で粒子に変わり、跡形もなく消えてしまった。


「えーと……これでどうなるって言うんですか? 誰かが返信してくれるとでも?」


 エインは呆れた顔で額を手で押さえている。


「この光の向こう側に必ずいるはずさ」


 エディは自信たっぷりにニヤリと笑う。


「俺達みたいな、頭のキレるイカれた天才バカがな」



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