第19話 夜に駆ける青い春②
「ところで、話は変わるけどさ、渡会さんとはどこで繋がったの?」
弁当を食べ終わった青井が、今度は話題を僕とヒカゲに移す。
「……ゲーム繋がりだな」
少し考えてそれっぽい理由を言う。夢の世界で、とか言ったところでな。
「司君ってゲーム好きだったんだね」
「友達が少ない奴ってのは、ネットの世界に繋がりを求めがちなんだよ」
「たった一人大切な人がいればそれでよかったんじゃないの?」
「その一人が今はいないから、寂しさを埋めようと思って」
「それが本気なのかわからない言い方だから反応に困るんだよなぁ……」
青井は困ったように笑った。
「渡会さん、なにか言ってた?」
「なにかって?」
「ほら、学校についてとか」
「あぁ……不登校だって言われたから、学校なんて行きたくなきゃ行かなくていいって言っといた」
「不登校全肯定スタイルだね」
「行くのが辛いならそれでもいいと思ったんだよ。やろうと思えば勉強はどこでもできるし」
「でも、青春はここにしかないよ?」
「誰も彼も青春を送りたいわけでもないだろ?」
「それは……そうかもだけどさぁ……」
青井は煮え切らない様子で足をバタつかせる。
「勇気を出して学校に来てくれれば、学校が楽しいところだってわかってもらうまで一緒に過ごすんだけどなぁ。渡会さんには渡会さんの気持ちがあるのはわかるけどさ、やっぱり私はもったいないと思うんだよ。学校ってさ、絶対楽しいところだからさ」
ヒカゲの不登校はいじめによるものではなく、ただ学校に馴染めなかっただけ。
去年も同じクラスだった青井が言うならそうなんだろう。
「それは青井の意見だろ? そういうのがストレスになる人だっている」
それでも、青井の意見は学校で陽の光を浴び続けている者だからこそ出る意見だ。
学校は楽しいところ。それは楽しめている側の意見であって、中には楽しめてない人間だって絶対にいる。
きっとその意見は少数派の意見で、多くの人からすれば「どうして楽しめないの?」と疑問に思うかもしれない。
だとしても、意見の押し付けはよくない。それが相手を追い詰める時もある。
学校に行かないことを肯定するのもまたひとつの答えだと僕は思う。
でも、これもまた僕の意見。
結局、全員が同じ感情になることなんてありえない。なら、その人が出した答えを尊重することが大事なんだと思う。
例え世間から見たら間違った答えだとしても、夢の世界に永遠に閉じ込めらることに比べれば何でもマシに思える。僕はそう思う。
「そうだね。これは私の意見だ。それでも、学校来てほしいなぁ……」
青井は寂しそうに遠くの空を眺め、思いを馳せるように、そっと吐き出す。
それは、まぎれもなく青井の本心だと思う。少なくとも、僕にはそう見えた。
誰も彼も青春を送りたいわけではない。
それでもきっと、多くの人は心の中では青春を送りたいと思ってはいるんだろう。
思ってはいるけど、クラスに馴染めなかったり、イケイケなグループに入れなかったり、そんな自分を卑下したり、余計な感情が青春を阻害する。なんてこともあると思う。
光があれば影があるように、青春の光が当たる場所があれば、当たらない日陰だってある。
光が当たる場所が好きな人もいれば、光の当たらない日陰が好きな人だっている。
やっぱり、個々人の価値観の話なんだよな。
「なら、もし彼女が学校に来た時はウザいくらいに絡んでやれ。僕の時みたいに」
それでも青井なら、学校に馴染めなかったヒカゲを無理やり陽の当たる場所へ引きずり出しそうな予感がする。現に、僕を一人にはしてくれないし。
とは言え、学校に通っていたころのヒカゲにトドメを刺したのも青井だけど。
だとしても、本気でヒカゲを想う青井の気持ちはきっとヒカゲに届くだろう。
なにせ、本気で相手を心配する気持ちは必ず伝わるらしいからな。
「それはもちろん! って、司君今流れで私のことウザいって言ったよね!?」
「おっと、つい本音が……」
「なんだとぉ!」
これはお互い冗談だとわかっているからか、青井は怒っているようで怒っていない。
ヒカゲが学校にさえ来れば、僕や青井がいるからもう一人になったりはしないだろう。
だけど、それは口で言ってどうにかなるものでもない。不登校から一歩踏み出す。口で言うのは簡単だけど、それを行動に移すとなるとまた話は変わる。
その一歩は、とても頑張って踏み出さないといけない一歩だ。
それを無理強いすることは僕にはできない。
結局のところ、全てはヒカゲの意思が全て。
願わくば、どんな現実を選んでも前向きであってほしい。
そうすれば、あの世界に囚われることもなくなるかもしれないから。
本物の青空を見ながら、僕はそんなことを考えていた。
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