第17話 知らない神様 その4
付き合ってみたけれど、なんとなく合わないしなんとなくつまらない。そんな理由で別れる男女は珍しくない。好奇心が旺盛な若さを持つならば尚更だろう。この好奇心というのが人間社会では厄介な役割を果たす。後戻り出来るところまでの程々で満足していれば誰も不幸にならないのに、知りたくなれば知らなくては気が済まなくなる。
限界性能を突き詰めるエンジニアや限界領域を追い求めるアスリートが事故で不能になるのも大抵は好奇心を止められないからだ。
程々で満足してりゃあ良いのに。
それが出来ない。
魔術師とはそんな連中の集まりだ。
その頭の良さそうな肩書の響きに反比例して、根本的に賢くない。
付き合ってみたけれど、つまらない。
そんな理由で別れる男女は例外なく幼い。
つまり魔術師とは。
成長しない大人、なのかもしれなかった。
「そうか……。“犯人はいない”が正解か」
「細を穿ち重箱の隅をつついて揚げ足取りをすれば、犯人は存在します。“製作者が犯人”であることは間違いないでしょう。ですが此処には居ない。何処にいるのかも解らない。生きているのかも、それが誰なのかも、解りません」
「ふむ。まさか“完全自律型の兵器”だとはね。水銀そのものが犯人。今回の場合、兇器が犯人ということになるのか」
「そもそも錬金術はフラスコの中に生命を生み出す学問すからね。媒介となった水銀に命が宿っていたとしても不思議じゃない。ボク等が追わなくてはならない不思議は別にあります」
「誰が言ったのかは忘れたがね、昔々“不可能犯罪を可能にするのは共犯者の協力か登場人物表に記載されない者が犯人である必要がある”らしいけれど。金属に命を与える、かい。こんなんズルじゃないか」
宮内庁が把握していない魔術体系だ。
データベースに存在しない。
水銀が魔術関連に登場することはあっても、水銀自体を自律兵器にするなんて聴いたことがない。
今は媚びりついた水銀を焼いて処理をしている。その蒸気は猛毒であり、気体になっても命を維持する可能性があったので火葬場並みの火力で貸ビル全体を消し炭にした。
これで事件は解決か?
いいや。
未解決だ。
水銀は少しでも残ればまた命を宿す。そして貸ビルの外に漏れ出していないとは誰にも判断が出来ない。なにより魔術師が居ないのに魔術師案件として宮内庁の特務機関が動くような事件で案件を起こす事が出来るのだと、魔術師側にパワーバランスが傾いているのだから。
「これは残業確定かい?私、家内に帰りが遅いと叱られてるんだよ?」
「我慢してください。とにかく一度宮内庁に戻り報告しなくては。あのヘブライ語も解読したいですし、他にも水銀が犯人の事件がないかを調べなくては」
これでチュートリアルは終わり。
ボク等の物語は此処から始まった。
始まったというか。
つまらなくなった。
だが幼い男女とは違い。
つまらなくなった、で。
辞めるわけにもいかないのが公務員。
フラスコで産まれた生命との。
トムとジェリー。
そんな物語は。
確かに。
此処が起点だったのだ。
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