第16話 知らない神様 その3

 まず考えてというか思い出して頂きたいのだが事件現場は貸ビルであって多数の企業が事務所を構えている。最初の被害者が誰なのかは解らないが身体が抉れるほどの凄惨な事件が起きたのだ。

 当然、貸ビル自体も大きく損傷した。

 当然、貸ビル自体が大きく損壊した。

 ボクが感じた疑問符は其処を起点とし。

 ボクが感じた疑問点は其処を基点とした。


 “危ないんじゃないか?”と。

 何故、働く職員は思わない?


 「___つまり、“探偵”くんが感じた疑問は場が不自然であるという点にあるというのかい?」

 「場というか環境です。魔術師というのはネットを中心に犯罪行為を問題視する声に事欠かない存在なわけです。成る程、優しく正義感に溢れる日本人ならば悪者を許さず事件現場に成ってしまった職場に留まり我々宮内庁の特務機関に協力したいと願い出る可能性もゼロではないでしょう。けど考えてみてください。『貸ビル壊すような相手に普通の人間が立ち向かえますかね?』ボクなら逃げます。転居して魔術師の居ない山縣や越前に逃げます」

 そう。

 危ないじゃないか。

 殺人事件の犯人でさえ捕まらずにいれば社会不安に繋がる。そして今回のは魔術師で殺人事件の犯人なんて騒ぎじゃない。社会は不安に陥り、なんなら近隣の市町村に外出禁止令が出ても不思議じゃないのだ。

 なのに___。


 「此処で働く職員は日常の中に居た。これが意味するのは……。」

 「そうか。魔術師が当たり前の存在として認識されているという可能性。そして魔術が当たり前の存在として認識されているという可能性になるわけかい」


 これが、そもそもの謎。

 ならば。

 紐解かなくてはなるまい。

 コードネームに恥じぬよう。

 魔術師を殺す為にも。


 「水銀の痕跡が残り続けるのも不自然です。術者から離れているならば重力に従って下層に流れていくもんなんですよ」

 「ただの液体じゃない。金属だよ?比重が重ければ床にこびりつくとかあるんじゃないかい?」

 「床ならば、そうでしょう。ですが、『壁のヘブライ語はどうです?』確かに文字を形作ったままですよね。ボク等は術者が逃げたとこうして探していますが、最初から認識を誤っていたとすれば?」

 「だが、術者は全身に水銀を纏い逃げたんだろう?」


 「全身に水銀を纏う防御術式。それ、本当に中に人間が入っていたんでしょうか?」


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