第15話 知らない神様 その2
貸ビル周辺は当然ながら機関の人間が封鎖をしていたし、封鎖というか結界で閉じ込めるような規模の封印をしているので完全に密室と言い換えて良い。密室というには広過ぎるならば“嵐の山荘”でも“孤島の洋館”でもなんでもいい。要は閉じた空間であり内側から脱出する事は不可能であると伝わればいい。
結界なんてもんを持ち出した時点で何がミステリだとも思うが。
事実。
ボク等は魔術師をロストしている。
「どうしますか?また“教授”のリーディングで残留思念を追えば追跡は可能ですが」
「無理だ。蒸気で命を落とした一般人のが混ざり過ぎてどれが魔術師なのかの判別が出来ない」
なんとも皮肉な結果だった。
魔術師を特定する為のトラップが、魔術師を追うに必要なリーディングを使用不可にしてしまったのだから。水銀の跡も同じ場所をグルグルと巡るだけで魔術師に辿り着く気配は微塵もない。
水銀遣いと踏んで楽出来ると軽視したボクのミスとは言いたくないが。
どうやら魔術師。
逃走のイロハは心得ているらしい。
これでは羊頭劬肉もいいところだ。
骨折り損である。
「水銀が残るということは間違いなく歩いていたのだろう?身体を覆うように展開して。ならば水銀バリアを解除して何処かに逃げたか隠れたかの可能性はないのかい?」
「一般人を全員焼いて水圧で真っ二つにするような罠を発動したんです。防御を解けるような精神にはないと考えるのが自然でしょう。なんつーか、魔術師を相手にしてるのに足跡トリックを考えなくちゃならないってのは気が滅入る話ではあるんですが」
当然。
急に現れてバァーン!の危険もある。
ボクはいいが“教授”が殺されてしまえば、機関には大打撃だ。
警戒をしながらの調査になるわけだが__。
「ふむ。この場合、確定事項はなんになる?」
「そうすね。“相手は水銀を垂れ流しながら移動している”という前提と“相手はこのビルから外に出る事が出来ない”の二つは間違いないでしょう。魔術師用の結界って触れたら即座に身体が弾けるぐらい強力ですし」
「ふむ。ならば、謎はなんだい?」
「“悪い魔術師さん、何処行ったの?”す」
まさか階層を跨いだ?
階段に水銀がないのにか?
いや。
それはない。
ビル内部にも仲間は配置している。
見つけたら連絡は入る筈だ。
それが本人であれ。
それが痕跡であれ。
願わくば遺体であって欲しかったがね。
「ふむふむ。なるほどなるほど」
「どうしました?“教授”のコードネームに名前負けせず、謎を解けたとかだと助かるんですが?」
「いや。サッパリ解らない。だって私は謎を相手にしないんだもん。それは君の仕事だろう?」
「別にボクも謎を解くから“探偵”ではないんですけどね……。」
使えないジジイだった。
リーディング能力がなければ転がる一般人に混ぜてバラバラにしてやりたい衝動に駆られる。
さ。
早速困ったぞ。
現場は血の海。
バラバラになった遺体と焼けた遺体の山。
魔術師は生存と仮定。
水銀が痕跡として残る為、魔術発動中。
でも居ない。
何処にも。
「身体も水銀になって配管を移動したとかじゃないのかい?ブラックRXにそんな能力あっただろ」
「バイオライダーが相手ならボク等に勝ち目はありません。最強の仮面ライダーですよ?」
「まあ、水銀を使役するのであって水銀でどうにかする魔術師ではないけどさぁ」
「なんなら、爆破しますか?」
「それで魔術師が生き延びたら始末書では済まない。圧縮された蒸気で生き残るような相手だ」
「其処なんだよなぁ……。」
また。
もう一つ。
謎はあった。
あのヘブライ語と。
もう一つ。
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