第12話 悪戯と邪戯 その1

 簡単な話である。

 水銀に非日常に対応した防御プログラムを入れてあるのだとすれば、スプリンクラーを誤作動させればいい。それが命に係る危険を伴う、をAND回路しているのであればスプリンクラーから熱湯を撒けばいい。

 ボイラー室と消火パイプを繋げばすぐだ、こんなもん。勿論、専門家には多額の料金が発生したが。

 宮内庁に支払って貰えばいい。

 領収書こそ“イタズラ代”とは記載出来なかったが、活動費として計上すればボクの財布は傷まない。

 悼むのは被害者への思いだけだ。

 良心すら痛まない。

 魔術師はなんらかの理由で被害者を孔だらけにした。そんなヤツに良心は反応しない。

 問題は。

 水は100℃までしか上がらない点。

 「どうしますか、“教授”。熱々のお湯をぶっかけるというのは悪戯にしてはやり過ぎだとは思いますが非日常かと言われたらギリギリ日常の範疇かなと」

 「いや、熱湯がスプリンクラーから噴射されたら充分に非日常だけどさ。しかし確かに生命の危機をと感じるかは、解らないというかグレーゾーンだね。少なくとも民間人には致命傷になるとは思うが……」

 其処でボクは業者さんに圧力弁をリミッターカットしてスプリンクラーから水圧レーザーが出るぐらいまでと頼んだ。

 何やら業者さんは「パイプが保たない!耐えろヨシコ!」とか「助けて!悪戯に金かけるタイプだ!」とか騒いでいたが、多額の料金を支払い黙らせた。

 宮内庁に支払って貰えばいい。

 「消火パイプが圧力に負けて爆裂すれば金属片が散ります。手榴弾代わりにするには充分かと。スプリンクラーが素直に熱湯ビームを出せば出すで良し。圧縮された蒸気に水銀は間違いなく反応します。だから犯人特定は易い」

 「圧縮蒸気に斬られるって、民間人からしたら魔術以上だよ?日常生活で経験出来る現象じゃないだろ」

 「懸念材料は消火パイプのヨシコですね。ヨシコが耐えれたら蒸気ビームですし、ヨシコが死ねばヨシコアタックです」

 「どちみち、魔術師の特定には繋がるけど。誰だい?ヨシコって」

 消火パイプだった。

 何処にでもある金属の。

 「民間人が居なくなると警戒されますからね。巻き込まなくてはならないのが難点ではあるんです。ですが、魔術師は生かしておけば町一つを壊滅させる」

 「それには賛成だがね。やはり、暗殺という手法が絶対的な条件というのはあまりに非合理的過ぎる。機関に連絡して攻勢要員に頼んだら良いだろう?」

 「忘れたんすか。魔術師は今や世界中から日本に来てます。結託されたらクーデターなんて事にもなりかねません。そもそもがっぷりよっつで勝てませんし」

 「戦闘で超能力は弱いからねえ……」

 そう。

 弱いのだ。

 エスパーは。

 だから暗殺するしかなく。

 だから暗殺に頼るしかない。

 これしか、ないのだ。

 日本人が魔術師を倒すには。

 

 

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