第10話 魔術師殺し その3
ボクと“教授”が導き出した答えは簡単で、事件現場となった貸ビルに様々な悪戯を仕掛けるという何とも迷惑な話だった。当然ながら仕込み期間を設ける必要はあったし、ある意味で殺人事件の火照りを冷ますインターバルとして作用する時間はお巡りさん達からボク等を隠すにも使えた。
別に警察関係者に相談しても良いのだ。「これから容疑者を暗殺しますけど、お巡りさんはどうしますか?」と。
多分、お巡りさんは「それ、ガチィ?」とか言って相手にしてくれない。忙しい中でも洒落を解する度量は流石だと思うし頼りになるとも感じたが。
世の中には本当に暗殺しようとしている探偵役も存在するのだとお巡りさんは憶えた方が良い。
というわけで二週間後。
同じ貸ビル。
敷地外にしては近過ぎるし。
敷地内にしては塀の外。
路地が交差する四辻。
コソコソもしない。
堂々と。
ボク等はクレープを食べていた。
「なかなかこんな機会でもないと若者が食べるスイーツなんかには食指が伸びないからね。チョコと生クリームと数種類の果物にコーンフレーク。これを小麦の生地で巻いてあるわけだが、“探偵”君?」
「なんすか?民間人に偽装してるんですから大きな声でクレープに感動せんでください」
「これ、カロリーが高過ぎないかい?我々はカロリーを消費してサイコでエスパーな力を使うから良いとしても。健康な娘さんが毎日これを食べていたとするならば確実にオーバーカロリーだ。糖尿病だって心配になる」
「解っちゃいるけど止められない類なのかと。“教授”が酒とタバコを辞められない、女性が甘い物を摂取するのを辞められない。その二つは位相こそ違えどベクトルが向かう先は同じです」
「元はフランスの軽食だよ?濃いめに淹れたハーブティーを嗜みながら目玉焼きと燻製肉と野菜を包んだものをだね?」
「フランス食文化の歴史に関する講義を聴きたくはあるんですが、場所は交差点ですし机も椅子は勿論、屋根もないですから。それにクレープなんかモグモグ食べたらキンキンに冷えた缶コーヒーで流し込むのが美味いんです。だから自販機の近くでワゴン車は営業するんですから」
「嘆かわしい……。本場フレンチとは今現在世に浸透しているように宮廷料理を指すのではなく素朴な農村部で好まれた軽食こそだろうに。私は声を大にして言いたい。飾らない日常の味こそ真のフレンチなのだと!」
「おっきい声を出すなって言ってんだろ」
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