第8話 魔術師殺し その1

 ボクの物語を話す必要性が見当たらない以上は不必要に風呂敷を拡げるつもりはないが、一つだけ大前提条件としてボクが抱える過去を紹介しておこうと思う。

 魔術師は、家族の仇なのだ。

 だからこそボクは魔術師を許さない。

 父は日本に雪崩こんだ魔術師達に嬲り殺しにされ、母は日本に回遊しに来た魔術師達に人体実験され脳を摘出され、妹は日本に高跳びして来た魔術師達に陵辱され死んだ。

 それぐらいからか。

 不思議な力が使えるようになったのは。

 それぐらいからか。

 魔術師を殺す為に頭を働かせるようになったのは。

 しかし、其処で高くはなくとも厚い壁が存在してしまう。

 そう、国連が指定した文化保護である。

 表立って殺すが出来ないを意味した。

 というか“殺害されたと知られてはならない”というルールが適用された。


 だから完全に暗殺に傾倒したし。

 だから完全に暗殺に拘泥したし。

 だから完全に暗殺に執着したし。

 だから完全に暗殺に専科した。


 知られず殺す。

 他殺だと認知されずに殺す。

 これは単純なルールに聴こえそうだが実際にやってみると面倒が多い。難易度は高くないが面倒が多い。踏まなくてはならない手順が爆発的に増加したと考える事も出来る。

 そして機関は宮内庁直轄。

 戦闘は門外漢で。

 暗殺はお門違い。

 だから自分で考える必要があった。

 だから自分で練り上げる必要があった。

 

 「君の能力があれば暗殺は容易い。例えば“クレーン車をイメージして鉄球で潰しても三秒後には兇器であるクレーン車は消える”んだからね。万能だよ、その力は」

 「いえ。屋内でクレーン車をイメージしたら床が沈みます。質量を利用した暗殺は屋外でしか出来ない。魔術師が死んでいる現場に超重力物が存在していた痕跡はあるのに移動した形跡がないと鑑識課が知れば即座にボクを疑うでしょう。魔術師は捕まえて国外追放か魔術師協会への引き渡しが原則です。悪者は即座に殺しちゃうぞ?が露見したら機関の立場が危うくなる」

 「なる程ね。イメージとはいえど実像を持ち質量を持つのだから痕跡は残ってしまうのか。そして数秒後には消えてしまうから銃や弓矢を具現化しても意味が無い。“道具の具現化は出来ない”、これは君が抱えたルールであり欠陥なわけだ。そして先程の話にあった通りに“君がイメージ出来ない事象は具現化出来ない”からね。即効性のある致死性の毒をイメージ出来れば完璧だったのだが……」

 「身近な毒を知る為として、ボクが怒ったヤマガカシに咬まれて毒牙を刺されたら具現化も出来ると思いますが、そしたらボクは死にます。温厚で臆病なヤマガカシですが怒ったら最強の毒を使うわけですからね。優しくて可愛いけど怒ると怖いというのは日本の蛇らしいとは思いますが」

 「同じくしてシアン化カリウムなどを君が経験するのも出来ない。何故ならば君が死んでしまうから。再現というか具現化出来る毒となると、糞尿に含まれる大腸菌や風邪のウィルスとかになるのかな?」

 「確かに身近ですけど。大腸菌や風邪ウィルスをイメージしろと言われても無理です。色違いのバイキンマンになる」

 「……バイキンマンじゃ具現化したとして、暗殺には向かないか」

 「ええ。即座に殴られてバイバイキーンかと」

 

 だから毒は使えない。

 秘中の秘として。

 “疫病感染者の血液”を具現化は可能だ。

 だが血液は効果範囲がデカ過ぎる。

 一人を暗殺する為に街一つを疫病に、とはコストパフォーマンスも倫理的にもよくない。

 「なら、どうする?この貸ビルに入る企業、其処で働く職員の誰かは魔術師だ。しかもピンポイントで犯人だけを暗殺となると骨だよ?外人さんを狙うにも外人さんが増え過ぎている時代だしね」

 「犯人の割り出しは可能です。“教授”は鉄火場に立つのが珍しいですから、経験が浅いだけです。“使役術の魔術師ならば、特定は難しくない”んです。やはり難しいのは暗殺でして。何も考えずに民間人諸共ビルを爆破解体してしまえれば簡単なんですが」

 「恐ろしい事を言い出すね、君は……」



 

 

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