第5話 超能力と魔術 その4
事件現場は台風が直撃してもこうはならないぐらいには荒れに荒れていた。まずコンクリが丸く切り取られ刳られるような台風が此の世に存在していたら、台風王国である日本は恐らく昔々滅んでいるだろう。島国だ。ブリン!って吹っ飛んでいても不思議じゃない。
「しかし“教授”。貴方の力を使えば魔術であろうと推理は可能なのではないですか?」
「君が言う力とは私の頭脳かい?それとも機関に属するを意味する『超能力』かい?あゝ、現代風に表現するならば異能と呼ばなくてはならないのだったかな」
ボク等は機関に属し、魔術師を捕まえる。
機関に属するには、ある種の力を持たなくてはならない。
魔術に対抗出来る『超能力』を持たなくては、機関の構成員として機能しない。
そして。
この嘘臭く胡散臭く何より人間臭い“教授”をコードネームにする老人の力ならば。
推理は可能だ。
推理というか。
解決が可能だ。
「リーディングの能力なんかミステリに現れて良いのかって思いますけどね。残留思念から当時を再現するんでしょう?」
「そんな便利な力ではないさ。再現したとしても一部だけだ。それはテレビ番組が飛び飛びなのを視聴するに近い感覚でね。それを言うならば“探偵”君の能力こそズルだろう?」
「ズル、でしょうか?ボクは使いどころが無くて今すぐにでもクーリング・オフをしたいと常々考えていますが」
「君の能力は効率が良過ぎるのさ。戦闘面でも捜査面でも機能し、応用も可能だ。無論、それには使う側に知恵があればの話になるがね。その点は問題ない。君は即座に本質を見抜く頭脳を持つ。だからこそのコードネームだ」
あえてボクは彼の言葉を無視した。
頭の良さで彼に敵うものはいない。
そして見抜く事は出来ても人を見る目がないのがボクだ。だから変人にばかり好かれるし懐かれる。それが自称変人気取りのナルシストならまだ救いもあったが“機関に属する人間は例外なく真性の変人”であるので笑えない。この“教授”でさえ、話が通じる分、まだ常識人のカテゴリに住まうのだから。
ボク等が活躍するのはどうしても殺人事件だ。
誰かの不幸の上にしか立てない。
だから、事件は解決しなくてはならない。
存在証明と。
存在理由と。
存在意義と。
存在価値と。
何より日本を護る為。
リーディングを開始した相棒の邪魔にならないように現場の検証を行うが、やはり丸くくり抜かれたような傷が目につく。大蛇がコンクリごと被害者を噛み千切ったと説明されればそうだなと得心してしまいそうな有様。
(本来、魔術による殺人は被害が小さい筈だ。誰かを殺すためだけなら、基礎的な人体発火現象を使えば事足りる。そうじゃないって事は人形術か傀儡術。なにかを使役するタイプの魔術師か?)
そうだとしたら、本当に大蛇なのか。
コンクリを砕くような?
そんな蛇、此の世にいるのだろうか?
居るとしたら、気合の入り方がヘヴィだ。
ヘヴィな蛇。
まあ、蛇はマムシ先輩でもない限りは臆病で恥ずかしがり屋だ。
そしてマムシ先輩だとしてもコンクリ砕きながら人間を襲うなんて芸当は出来まい。
被害者の遺体と周囲の穴からは何か粘性の液体が垂れている。
ポトリ、ポトリと。
ポツリ、ポツリと。
音の無い事件現場にリズムを刻む。
非日常的な事件現場。
非日常的な損壊遺体。
非日常的な超能力者。
お巡りさんが現場を日常から隔離したので本当に絵画世界に迷い込んだような錯覚を覚えた。
「待たせたね。視えたよ、“探偵”君。兇器は其処で垂れている液体。水銀だ」
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