第4話 超能力と魔術 その3

 「結局のところ、不可能犯罪というのは“犯人が単独では不可能だ”という思い込みが不可能犯罪だと誤認させているだけだ。密室トリックも時刻表トリックも雪の足跡トリックさえ、“共犯者がいれば可能になるのがミステリだ”と世の中は気づかなくてはならない。例えば、X軸で不可能だとしようか。この場合のX軸とは時間を意味する。つまりアリバイだね。しかし共犯者がいればアリバイなんか意味を為さない。共犯者の存在を最初から疑えばだよ?時間軸で不可能だというトリックがその時点で死ぬ。無論、単独犯の場合もあるがね。しかし知能犯が存在するのは企業犯罪だけだ。殺人に知能犯は存在しない。推理小説じゃないんだから」

 随分と長い講釈だった。

 “教授”がバディだと聴かされた時点で蜘蛛の巣の周りを飛ぶ揚羽蝶のような感覚だとの意識は間違いではなかった。捕まればマシンガントークでバラバラにされるのが解っていたからだ。

 「君の考えを聞こうか。“探偵”。なる程、遺体は無残に切り刻まれ傷口の大きさが不揃いだと来ている。これを視た警察は即座に叫んだそうだよ。『魔術師の仕業だ!』とね。しかしだ。今、私が仮説建て仮定した共犯者の存在を前提とすれば、どんな可能性が出て来る?」

 「ええ。“犯人は複数で、兇器も複数。刀、ナイフ、斧、ノコギリ、鉈で一人を切り刻んだ。ならば、これは魔術師の犯行じゃない可能性が残る”でしょうか?けど、魔術師の犯行ですよ?エーテル残滓が現場にあるんですから」

 魔術を使えばエーテルが場に残留する。

 銃を撃てば硝煙反応が残る。

 それと同じである。

 そんなに便利なツールじゃない。

 魔術、は。

 「ならば、ここでY軸の不可能犯罪といこうか。コチラは人数だね。複数でなくては不可能であるという逆説的で不可逆的なトリックだ。この場合の謎は単独犯であるのに複数犯でなければ不可能であるという類になるか。しかし、先程私が話したX軸がね、コッチの事件には作用しない事が多々ある。単独犯が複数犯に見せる為に必要になるファクタはなんだい?」

 「X軸そのもの。“時間”ですよね。単独犯でも時間を使えば複数犯だと思わせる事は可能になる。あまり意味はないようにも思えますが、ハイジャック事件や立てこもり事件などのテロリストは実行犯の人数を誤認させる為に使った記録はありますけれど」

 目の前には遺体がある。

 空間を切り取られたように。

 大きく、抉られた。

 大雑把に、切り取られた。

 不出来なアート作品のようだった。

 未完成のアート作品のようだった。

 ボクが美大の講師なら単位はやれない。

 「正解だよ。“探偵”君は話が早くて助かる。ならば、次で最後だ。日本は様々な魔術師を受け入れた。文化の保護だとしてね。これによりZ軸というあり得ない基軸が発生したんだ。日本でしか見かけないし、日本だけが抱える問題提起だ。“この魔術は日本でも行使可能な類か否か”というね。


印術、つまりルーン文字を使うぐらいならば日本でも可能だ。ルーン文字を描けば良い。

秘術、つまりタロットカードを使うぐらいならば日本でも可能だ。アルカナを用意すれば良い。

人形術、つまり使い魔を使役するぐらいならば日本でも可能だ。警察犬とかいるしね。魔術としては弱い。


けれども。

体系が確立していない“なんでもありの魔術”の場合はだよ?


推理は不可能になる。そりゃそうだよね。なんでもありなんだから」



  

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