第5話 続々・チュートリアル!

 木の斧を突き立てる。

 俺は前世で木を切った事がない。なんとなくゲームの印象から水平に斧を振るい続けるものだと思っていた。

 けど、さっき見たチュートリアルの注意書きにはこう書いていた。


『水平に切ろうとすると、刃が挟まって抜けなくなるよ!』


 だから、袈裟切りのように斧を振るう。

 『/』のように切り込みを入れるのだ。

 そしてその下側を水平に、『_』のように切り、最終的に『∠』のような切り込みを作っていく。

 そうして、その切り込みが深くなると、木は切り込みの方向に倒れるというものらしい。

 前世でも木こりさんがそうしていたのかどうかはわからないが、納得のいく説明だったので採用して、空腹を我慢して斧を振るう。


 無心で斧を振るっていると、二つの事に気付いた。

 一つは、切株に刺さっていた斧は、やはり業物なのだなという事。

 全体的に重いのだが、先端の重さが絶妙で、振りかぶるのに重すぎず、振り下ろす時に遠心力がよく働く。振っていてすごく気持ちがいい。

 そしてもう一つは、俺はこの作業が好きなのかもしれない。

 勿論木を切るなんて初めての経験だから、柔らかい木を選んだつもりなのに全然刃が入っていかないのだが、それでも、斧をリズムに合わせて振る行為を続けていると、心が無になり、空腹すら忘れてしまうようだ。


 そうして、木に刃を突き立て続けていると、ついにとうとうメキメキという音と共に気が倒れていく。


「結構時間かかったかな」


 誰ともなしに呟いた俺の声に、勿論応える者はいない。

 けれど、なんとなくこの達成感を表現したくて声に出た。

 誰かと共有したいと思えるくらいにさわやかな気持ちになっている。

 けれど、木を切ってみたはいいけど、これどうすれば……。

 ああ、そうか、細かく切って薪とかにすればいいのか。

 

 そんな事を考えながら切り倒した木をなんとなしに見ていると、気付いた事がある。

 丸くて大きい実がなっているのだ。

 その実をじっと見つめると。


『ヤシの実』


 やった! 食糧だ! しかもヤシの実と言えば、中に水が入っているって聞いた事がある!


 俺は意気揚々とヤシの実を一つもぎ取り、結構大きく、硬いそれをどうやって食べるのかと思考する。

 ノックする様に実を叩いてみると、かなり硬質な音がする、これは斧の出番だろう。

 地面にヤシの実を置き、斧を振り下ろす!

 一刀両断とはいかず、刃は中ほどで止まったが、そのままもう一度振りかぶって地面に叩きつける!


「……しまった……」


 やってしまった。

 ヤシの実は真っ二つになったが、中の水は飛び散って地面に吸われていった。

 ヤシの実の果実も土で汚れてしまった。洗えば食べられるだろうか……。

 いや、問題はどうすればヤシの実の水分を摂取するかだ。

 同じ方法で割ろうとすれば、同じ結果になってしまうだろう。


 うんうんと考えていると、ある事を思い出した。

 確か、メッセージカードにはこう書いていた筈だ。


『最初は数日分の食料を用意しておくつもりだったけど忘れたから、この先の小屋に行って道具揃えて頑張ってね』


 引っかかるのは、「道具揃えて頑張ってね」の部分だ。

 勿論、「今後道具を揃えていって」という意味ともとれるが、この書き方だと小屋に道具がある、ともとれる。

 もしかするとこのヤシの実をなんとかできる道具があるかもしれない!


 そろそろ空腹でふらふらしてきたし、喉も乾いてしょうがない。

 一つヤシの実を抱えて、一旦ログハウスに戻る事にした。

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コミュ障転生 ~怖いのでフラグから全力で逃げ回る事にします~ KA𝐄RU @_kaeru_

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