第4話 続・チュートリアル!
少し森を歩いてみる。
一人で森なんか来た事ないから少し怖いけど、それでもお腹も減って来たし、何もしないと第二の人生も即終了となってしまうと思ったからだ。
トボトボと歩いていくと、あるものを発見した。
切株だ。
切株があるっていう事は、人が居るっていう事だよね!
そう思っていた時代が、僕にもありました。
その切株には斧が刺さっており、レターカードが添えられている。
俺はまず、そのレターカードを手にした。
『ようこそ、新たな人生と世界に幸ある事を願って』
まあ、色々言いたい事はあるけど、感謝していないかというと嘘になる。
確かにいきなりどことも知れない森に放り出された事はひどいとも思う。
ただ、それが逆に何を得て進んで行くのかは自分次第だと言われているみたいな気もする。
あの山羊男、意外といいやつなのかもしれない。
ふと、レターカードの裏にも何か書いてあるのに気付いて見てみる。
『最初は数日分の食料を用意しておくつもりだったけど忘れたから、この先の小屋に行って道具揃えて頑張ってね』
……前言撤回、最低な野郎だ。
取り敢えず、刺さっている斧も持っていけという事だと思うから、切株から引き抜いてみる。
柄の長さは、ゾンビが出てくる洋ゲーや洋ドラマとかでよく見かける消化斧くらい。あるいは、西洋甲冑着ている人が振り回すバトルアックスくらい。
両手斧とかツーハンドアックスとか呼ばれる斧だ。柄は緩やかなS字を描いており、刃は大きく、そして作りがしっかりしており、恐らく高級な斧なんだろうなと思える物だった。
多少重いが、切る、割る、叩く、色んな事に使えそうだ、大切にしよう。
「この先ってどっちだろう」
レターカードに書かれていた、「この先の小屋」がどこにあるのかを散策する為に足を動かす。
空腹もあって足腰に力があまり入らないが、それでもこのままでは飢え死にだ。
俺は一歩一歩前に進んだ。
少し歩いた場所で、俺は木こり小屋のような建物を見つけた。
それは森に突然現れた家、という感じだが、丸太を組み合わせたログハウスは不思議と森に調和していた。
そのログハウスの奥には小さな川があった。俺は思わず駆け寄り、手で水をすくって口に含みかけ……手を止めた。
見た感じはとても綺麗な水だし、飲んでも問題ないように見える。
でも、煮沸しないと危ないのでは? という思考が頭を渦巻くし、そもそも生理的に生の水は受け付けない。
そういえば前世では水道水も一度煮沸しないと飲めないと思ってたし、川の水なんて飲んだことなど一度もなかった。
日本の水道水は世界一安心だって言うけど、水って怖いし。
そう思っている間にすくった水は全部落ちてしまう。
「森で生きるには潔癖過ぎるかな……」
多分、もう少し命に関わる程度に喉が渇いていれば、何の感想もなく口をつけていただろう。
喉は乾いているけど、中途半端にまだ耐えられそうだから躊躇してしまうのだ。
「とりあえず、中を見てみようかな」
水を見て悩む事数秒。俺は諦めて小屋の中を確認する事にした。
レターカードの件から、誰も住んでいないのではないかとは思うけれど、念のためノックし、「失礼します」と声を掛けて扉を開く。
入ったその先には、奥に暖炉があり、手前に簡素なテーブルと椅子が4脚。質素だがしっかりした作りのシングルベッドと、本棚が一つ。
衣服を収納する場所はどこだろう、とか、食料はどう保存するのだろうとか、長く居住する事を考えると不足しているものはあるかもしれないが、野宿する事に比べると、格段によい環境ではあると思った。
だが──。
「やっぱり、食料はどこにも無しか……」
なんとはなしに、本棚に向かう。
本棚、とは言っても、収納されている本は3冊だけだ。そのタイトルを見やる。
「『チュートリアル1:サバイバルガイド』『チュートリアル2:成長要素と魔力』『チュートリアル3:魔法とは』か。お腹空いたし、喉も乾いたけど、サバイバルガイドの触りだけでも読んでみるか……」
パラパラと『チュートリアル1:サバイバルガイド』に目を通すと、可愛らしくデフォルメされた山羊男のイラストと共に、まるでゲームの説明のようにわかりやすく簡単に書いている。
どれだけ簡単な感じで書いているかというと、最初に飛び込んでくる文字が「チャプター1:まずは採集してみよう!」という文字であるくらい、全年齢に分かり易い感じで書かれている。
その後絵と共にこの辺りで採集できるものが記載されている、という具合だ。
この辺りで採集できるのは……。
クコの実、バナナ、ヤシの実、リンゴ、クロウベリーなどなど。
植生の寒暖差がどうなっているのかと不安になるラインナップだ。
詳しくは知らないが、前世の知識と同じであれば、クコの実は寒暖差が激しい場所でも育つ。バナナ、ヤシの実は暑い地方で、リンゴ、クロウベリーは寒い地方というイメージだ。
農家などやったこともないから、あくまでイメージでしかないけれど、それらが混然一体で採取できる場所なのだろうか。
それとも、ここは異世界だと考えると、俺の知っているバナナやリンゴとは異なるのだろうか。
謎は尽きないが、ここでうんうんと考えていても答えが出る訳もない。パラパラとページを捲って流し読みして、知識の答え合わせの為に外に出る事にした。
外に出て、思わぬ事に気付いた。
俺の目の能力だ。
相変わらず『なんらかの木』だとかふざけた情報が表示されているが、その中にあったのが、『クコの実』という表示があるのだ。
近づいてみると、本で見た絵とそっくりなクコの実が実際にあったのだ!
つまりこれは、俺が得た知識を視界に反映させるものなのではないだろうか。
これって鑑定スキルみたいなものだ。よくある鑑定スキルの知識の根拠はわからないが、この目の知識の根拠は自分自身。つまり自分が知識を得ていけば、この目も成長していく、そんな感じだろうか。
なんだか楽しくなってきた!
俺は急いでクコの実を川まで持っていき、軽く洗った後食べてみる。
「ぐっは! まっず!!」
口に広がったのは高揚した気分を地面に叩き落すほどの圧倒的な苦みだった。
舌がピリピリするくらいに苦い。
あれ、おかしいな、食べれる筈だよな、クコの実って。
なんかおかゆとかに入ってるイメージだけど……。
手に残ったクコの実を見つめると、情報が更新されていた。
『クコの実:苦くて不味い』
うーん。なんだろう。異世界で期待していた鑑定スキルって、事前に情報が分かるっていうズルいくらい便利な機能ってイメージだけど、俺の手にした鑑定(のようなもの)は実際に体験するか、知識を得るまで機能しない。
便利だけど、チートという程ズルい感じではない。
でもさ。わくわくしてる。
最初から最強じゃない。最初から揃ってない。
これから揃えていくこの感じに、俺は間違いなくわくわくしている。
この気持ちは、新しいゲームをプレイしている感覚に似ているのかもしれない。
どんなクソゲーでも、最初は楽しいんだよ。どこかの時点でつまらないと感じたとしても、最初は楽しいんだ。
そして、ゲームの様な世界だとしたら、これはサバイバルゲームだろうか。
サバイバルゲームの基本は、最初はまず木こる事!(※ 木こりのように木を切る事)。
俺は空腹も何もかも忘れて、斧を手に、細くて切り易そうな木を選んで斧を振るい始めた。
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