ほい ほい ほーい

澳 加純

第1話

 小さな魔女きららのお仕事は星空のお掃除でした。


 みんなが眠った頃、夜のお空のそのまた上の、星の海原まで魔法の箒で飛んで行き、流星が落としていった星の欠片を掃くのです。



 流星はスピード狂。夜空の隅から隅へと、猛スピードで駆け抜けていくのが大好き。

 でもその時落としていった光のかけらのことは知らんぷり。


 そのままにして置いたら、空は星のかけらだらけになってしまいます。だから、それをお掃除するのが魔女のお仕事。

 現在は小さな魔女のきららの担当なのでした。きららはお掃除が得意ではないので、このお仕事を任された時は不満でした。けれど代々の魔女たちが受け継いできた大事なお役目でしたから、ちょっとだけ鼻が高くなりました。だって、真っ暗なお空のそのまた上まで登っていくのは、優秀な魔女でなければできないと知ったからです。

 それに、夜空のお掃除は思っていたより楽しいということも知りました。



「さあ。今夜もがんばらなくっちゃ!」


 あちらこちらに散らばった、キラキラ輝く小さな欠片。

 きららがエニシダの箒で、右から左へ えいっ! と掃けば


 ほい ほい ほーい


 と、楽しそうな声を上げて転がっていきます。


 けれども星の欠片は自由気まま。

 あちらこちらに散らばってしまうので、掃いても、掃いても片付きません。


 困ったきららは、今度は左から右へ、箒を動かしてみました。


 ほい ほい ほーい


 またまた流星の欠片たちは、そこらここらに散らばっていきます。

 きららは大きく肩を落としました。


「あんたたち、あたしに意地悪しているんでしょ?」


 すると星屑たちは答えます。


「違うよ、違うよ。楽しいんだもの。コロコロするのが、楽しいんだもの。ほーい!」


 みれば、どの欠片も声を立てて笑っています。


 笑うと、より一層キラキラと輝くのです。

 その輝きを見るのが、きららの楽しみでもあったのです。


 暗い夜の空いっぱいに散らばった星の欠片たちは、それぞれに光を放ちながら、


「ほい ほい ほーい ほい ほい ほーい!」


 と楽しそうに歌っていました。そのメロディはとても心地よく響いて、きららの気持ちを湧き立たせてくれるのです。

 だからでしょう。いつの間にか箒を動かす手を止めて、一面の星景色に見入って立ち尽くしていました。


「だめ、だめ。ほうき、ほうき」

「掃いて、掃いて。コロコロさせて」

「コロコロしたいんだ!」


 星の欠片たちに誘われて、きららは箒を動かします。

 右へ左へ。左へ右へ。

 大きく振ったり、小さく振ったり。


 そのたびに欠片は揺れて転がって、笑って、歌ってと、きららを取り巻いて大騒ぎ。

 だからきららもすっかり楽しくなってしまいました。


 一緒になって歌えば、その歌声を聞いた流れ星が、仲間に入れてときららたちのところへと降りてきます。

 そしてきららたちの周りをくるくる回り、また星のかけらをたくさん落としていきました。


「これじゃ、ちっともお掃除が終わらない!」


 エニシダの箒を振り上げ怒ってみても、星くずたちは楽しそうに歌い続けているし、それを見ているきららの顔も本気で怒っているようには見えません。

 その晩は星くずたちと、とりどりの色と輝きに取り囲まれて、小さな魔女はいつまでも歌い踊っていたのでした。



 



 けれども東の空がうっすら明るくなる頃、欠片たちは光を失い、歌声も聞こえなくなりました。

 あれほど賑やかだった夜空がしんと静まりかえり、ゆっくりと新しい朝がやってこようとしています。空を染めるオレンジ色の光が鮮やかになるほど、星くずたちの姿は溶かされるように消えていきました。


 朝焼けの空にひとりぽつんと残された、きらら。


「空が暗くなったら、また一緒に遊びましょうねー!」


 ほい ほい ほーい


 どこからか、返事が聞こえた気がしました。きららは大きく手を振って、それに答えます。


 また今夜、星くずたちに会えますように。すっかり明るくなった空に約束の呪文をかけることも忘れてはいけません。

 だって、星たちは大層気まぐれなのですから。今夜まで、約束を覚えていてくれるかもわからないのです。


 呪文を唱え終わったきららは、もう片方の手にしていた箒に跨ると、大きなあくびと共にお家へと帰って行ったのでした。


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